はじめに|「常識は18歳までの偏見」という言葉の出どころ
「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションである」。この表現はアインシュタイン名義で広まっていますが、現在の短い一文を本人がそのまま語ったと確認できる原資料は見つかっていません。その一方で、1948年までさかのぼる重要な掲載例があります。
この言葉は、普段は疑わない判断や習慣に目を向けるきっかけになります。けれども、日常生活で役立つ知恵や経験まで、すべて偏見だと決めつける必要はありません。当たり前だと思っていることを、改めて確かめるための問いとして読む余地があります。
出典を検証する際は、誰かが人物の考えを説明した文章と、本人が実際に発した言葉を区別する必要があります。1948年の紹介文が、どのように現在の直接引用へ変化していったかをたどりながら考えてみましょう。
1948年のバーネットによる紹介文は何を示すか
Quote Investigatorの調査は、1948年5月の『Harper’s Magazine』に掲載されたリンカーン・バーネットの記事を初期の重要資料として挙げています。バーネットはアインシュタインが常識を若い頃に形成された先入観と捉えたという趣旨を説明しています。
しかし、その箇所はアインシュタインの言葉として引用符に囲まれていません。バーネットが本人の考えを自分の言葉で要約した可能性があるため、現代の定型文をそのまま1948年の本人の発話として提示することはできません。
バーネットがこの主題を扱った書籍には、アインシュタイン自身が序文を寄せたという事情もあります。両者の関係や思想の近さは重要な手掛かりですが、序文があるという事実だけで、本の中のすべての表現をアインシュタインの逐語引用として保証するものではありません。
短い英語の定型文は、後から引用らしく整えられた
現在よく見かける英語は「Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen.」という形です。1948年の紹介文より短く、覚えやすい文章として広まっています。
Quote Investigatorが参照したアインシュタインの引用集『The Ultimate Quotable Einstein』では、この短文について裏づけとなる本人の引用元が見つからないことが説明されています。引用集に載ったことと、本人の原稿が確認されたことは同じではありません。
言葉が有名になるほど、紹介者の説明がいつの間にか本人の直接発言へ変わることがあります。日本語の「コレクション」という訳も、後世の英語の定型形に対応する表現です。翻訳の響きをもとに本人の語り口を想像しないほうがよいでしょう。
常識は役立つ。それでも前提を疑う余地がある
私たちは、横断歩道で止まることや約束した時間を守ることなど、共有された知恵や習慣に助けられています。常識がいつでも間違いだという読み方は、実際の生活に合いません。
一方で、長く慣れ親しんだ考え方の中に、十分な根拠がなくても当然だと思っている前提が混じることがあります。自分が見聞きしてきた範囲を、世界のすべてだと考えないことが、言葉の一つの読みどころでしょう。
例えば仕事では、以前の方法がうまくいったからといって、顧客の状況が変わった後も同じ答えになるとは限りません。経験を捨てるのではなく、経験が今の条件でも通用するかを確かめることができます。これは当サイトによる実践的な解釈です。
日常で、自分の「当たり前」を確かめてみる
何かを当然だと感じたら、なぜそう思うのか、どんな経験から学んだのか、違う立場ではどう見えるかを考えてみる方法があります。信じていることを一つずつ事実と解釈に分けるだけでも、新しい発見があるかもしれません。
ただし、疑うこと自体が目的になると、根拠のある知識まで軽んじる危険があります。疑問を持った後で、信頼できる資料や実際の結果へ戻ることも大切です。常識を否定するか信じるかの二択にしないほうがよいでしょう。
関連記事の「同じ考え方では問題を解決できない」では、1946年の本人の言葉と後世の意訳を区別しています。人物ページにも他の言葉があります。アインシュタインに結びついた格言でも、資料の確かさは一件ずつ異なります。
まとめ|有力な古い帰属と、逐語的な確認は別
「常識とは18歳までの偏見のコレクション」には、1948年にバーネットがアインシュタインの考えとして説明した有力な先行資料があります。しかし、それは引用符付きの本人の発言として記録されたものではありません。
そのため、本人の言葉と断定するより、バーネットが紹介した考えが後世に短い格言となって広まったと考えるほうが慎重です。出典ステータスは引き続き要検証(117)とします。
主な資料:Quote Investigator「Common Sense Is Nothing More Than a Deposit of Prejudices…」(1948年5月『Harper’s Magazine』473ページの記録と短文化の調査)。出典ステータスの読み方もご覧ください。当サイト自身は1948年の雑誌原紙面を直接照合していません。