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芥川龍之介『仙人』「どうせ生きているからには、苦しいのは当たり前だと思え」|李小二が鼠に語る台詞

はじめに

「どうせ生きているからには、苦しいのはあたり前だと思え」。芥川龍之介の名言としてよく紹介されますが、原典は短編『仙人』です。

しかも、この言葉を話すのは芥川本人でも、作品の語り手でもありません。鼠を使った見世物師李小二が、自分の鼠たちへ向かって語る台詞です。

苦しい生活を送る見世物師の言葉

李小二は年齢と体調の悪化で商売にも身が入らず、明日の暮らしへの不安を抱えています。

寒さや空腹に耐える宿で、五匹の鼠へ「辛抱しろよ。己だって腹がへるのや、寒いのを辛抱している」と語り、その後にこの言葉を続けます。

つまり、成功した人物が若者へ贈る励ましではありません。自分自身も苦しみの中にいる男が、鼠へ言い聞かせる半ば独り言です。

「苦労は成長のために必要」とは言っていない

現代的な自己啓発へ変えると、「苦しみは成長の糧だから耐えろ」という意味になりがちです。

しかし李は、苦しみの意味を肯定的に説明していません。むしろ自分がなぜ苦しまなければならないのか明確には分からず、その苦しみを不当だとも感じています。

だから台詞には、励ましと諦念が同時に混じっています。

まとめ

「どうせ生きているからには、苦しいのは当たり前だと思え」は『仙人』本文に確認できます。

ただし芥川本人が人生訓として直接述べた言葉ではなく、生活苦にある見世物師・李小二が鼠へ語った台詞です。

苦しみを美化する言葉ではなく、苦しい現実の中で自分にも言い聞かせる人物の声として読む方が原典に近づきます。

出典メモ:芥川龍之介『仙人』。青空文庫公開本文で確認。