はじめに
「教育は高齢への最適の備えだ」「教育は老年への最良の備えである」。アリストテレスの名言として知られるこの言葉には、古代の出典があります。
ただし、アリストテレスの現存著作から直接確認できる一文ではありません。後世の著述家ディオゲネス・ラエルティオス『哲学者列伝』第5巻が、アリストテレスの言葉として伝えています。
したがって「アリストテレスの著作にこう書いてある」とするより、古代の伝承がアリストテレスの発言として記録していると説明するのが正確です。
『哲学者列伝』に残る言葉
ディオゲネス・ラエルティオスはアリストテレスについて、教育を「老年への最良の備え」とした、と記しています。
同じ伝記には、教育には生まれつきの資質・学習・絶えざる練習が必要だとしたことや、教育に関する複数の逸話も収められています。
ただしディオゲネス・ラエルティオスはアリストテレス本人と同時代の記録者ではありません。こうした逸話は、本人の著作に残る文章と同じ確度で扱うべきではありません。
「老後のために資格を取れ」という話ではない
この言葉を現代風にすると、「若いうちに勉強しておけば老後に役立つ」という自己投資論に見えます。
しかし、古代の短い伝承から「知識や技能を若いうちに蓄積すれば経済的に豊かな老後になる」といった具体的な主張まで読み込むことはできません。
また旧記事にあった「当時は教育が特権階級に限られていたため、教育の普及を訴えた言葉」という背景も、この一句の出典からは確認できません。
それでも残る問い
作者の意図を過剰に補わなくても、この言葉は面白い問いを残します。
年齢を重ねたとき、若い時期に身につけた何が自分を支えるのか。財産や身体能力だけではなく、読む力、考える力、世界への関心、人との対話を可能にする教養も「備え」になり得るでしょう。
これは現代的な解釈です。アリストテレス本人の意図として断定するのではなく、古代の伝承から私たちが考えられる問いとして区別しておきます。
まとめ
「教育は老年への最良の備え」は、完全な出典不明の偽名言ではありません。
ディオゲネス・ラエルティオス『哲学者列伝』第5巻が、アリストテレスの言葉として伝えています。ただし、アリストテレスの現存著作から直接確認できる一文ではありません。
本人の著作と、後世に伝えられた発言を分ける。そのうえで読めば、「学ぶことは将来の自分に何を残すのか」という問いは十分に価値を持ちます。
アリストテレスを人物から読む
アリストテレス人物ページでは、『形而上学』『倫理学』『政治学』など本人の著作と、古代の伝承・後世の要約を区別しながら、知識・徳・友情・政治を横断して読めます。