「クラスター錯覚(clustering illusion)」は、ランダムなデータの中に自然に生じた「かたまり」や連続を、意味のあるパターンだと解釈してしまう傾向です。
ランダムでも「偏り」は生まれる
私たちは「ランダムなら、きれいにバラバラになるはずだ」と考えがちです。しかし実際のランダム列には、連続や局所的な集中が普通に現れます。
たとえば公平なコインを何度も投げても、「表」が何回か続くことはあります。その連続だけを見て「表が出やすい流れが来ている」と考えると、偶然のまとまりへ原因を読み込んでいる可能性があります。
クラスター錯覚のポイント
重要なのは、見えているクラスターそのものが存在しないわけではないことです。データ上の連続や集中は実際に起きています。
錯覚になるのは、「このまとまりは偶然ではなく、特別な原因がある」と十分な検証なしに判断するときです。小さな標本ほどランダムなばらつきが大きく見えやすく、偶然のクラスターを意味あるものと感じやすくなります。
例1:コイントスやくじの連続
独立した試行でも、同じ結果が何度か続くことがあります。そこで「流れができた」と考えたり、逆に「そろそろ反対が出るはず」と考えたりすると、ランダム性の理解を誤ることがあります。
例2:病気や事故の「集中」
特定の地域・期間に症例や事故が集中すると、すぐ共通原因を想定したくなります。しかし、大量のデータを観察すれば、偶然によるクラスターがどこかに現れることがあります。
もちろん、本当に共通原因が存在するケースもあります。だから必要なのは「クラスターだから偶然」と決めることでも、「クラスターだから原因がある」と決めることでもなく、期待されるランダム変動と比較して検証することです。
ホットハンド研究との関係
クラスター錯覚を考える際によく参照されるのが、バスケットボールの「ホットハンド」です。Gilovich、Vallone、Tverskyによる1985年の研究は、選手やファンが連続成功を実際以上に意味ある「流れ」と捉えている可能性を論じました。
ただし、この研究を「ホットハンドは存在しないことが証明された」と紹介するのは現在では不適切です。MillerとSanjurjoは2018年、従来の分析方法に有限標本上の選択バイアスがあると指摘し、補正すると古典的研究の結論が逆転すると報告しました。
ここから得られる大事な区別は、クラスター錯覚という認知上の問題があることと、特定のクラスターに実際の原因がないことは別だという点です。見た目の連続だけでも、思い込みだけでも判断しないことが重要です。
クラスター錯覚を避けるための見方
- 十分なデータ数があるかを見る。
- 分析前に注目した条件か、結果を見てから都合のよい場所を選んだのかを区別する。
- ランダムならどの程度の連続・集中が起こり得るかを比較する。
- 一つの「それらしい原因」だけでなく、偶然や別要因も候補に残す。
確認した資料
- Gilovich, Vallone & Tversky (1985), “The hot hand in basketball”
- Evers (2017), “The Texas sharpshooter fallacy”(clustering illusionの説明)
- Miller & Sanjurjo (2018), “Surprised by the Hot Hand Fallacy?”(古典的ホットハンド研究の再検討)
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