「諸君は必ず失敗する。成功より失敗が多い。失敗に落胆しなさるな」。大隈重信のこの一節は、挑戦の精神論としてよく引用されます。しかし1897年の演説全文を読むと、結論は単に「何度でも頑張れ」ではありません。社会へ出れば必ず困難に遭う。だからこそ学問という羅針盤を手放すなという、卒業生への継続学習の呼びかけが中心にあります。
1897年、東京専門学校第14回得業証書授与式
青空文庫の『学問の独立と東京専門学校の創立』は、大隈が東京専門学校の卒業式と創立15周年祝典で行った演説を収録しています。早稲田大学の創立記念特集も、1897年7月の第14回得業証書授与式で語った言葉であることを確認しています。
卒業を迎えた学生たちが社会に出ることを、大隈は「初陣」にたとえています。社会にはさまざまな困難があり、実際に挑戦すると失敗することも多い。そこで落胆せず、経験から学んで次の成果を目指せ、という順序で語られます。
有名な引用が省く「航海の羅針盤は何であるか」
演説は、失敗を乗り越えよという訴えのすぐ後に、社会の大洋を航海する羅針盤は何か、と問います。答えは「学問だ」。さらに「バロメートル」という比喩を使い、社会に出てからも本を手放すなと説きます。
この流れが重要です。失敗を経験したという事実だけで成長するのではなく、経験によって自分の判断を見直し、知識を更新し続けることが必要だと読めます。失敗を繰り返すこと自体を目的化しているわけではありません。
大隈は「いつでも成功する」と保証したのではない
「成功より失敗が多い」は、実際の成功確率を測った統計ではなく、卒業後の複雑な社会を強調した演説の表現です。挑戦すれば必ず成功する、あるいは失敗はすべて貴重な経験となる、という万能の法則として用いることはできません。
原文に沿って考えるなら、失敗したときに何を理解し直すか、次に何を変えるかが要点です。安全や生活への影響が大きいときには、同じ方法を繰り返さず、試行を小さくすることや撤退することも合理的でしょう。ここは原典から発展させた現在の読者向けの解釈です。
演説の後半では「学問の独立」を語る
前半で卒業生に学び続けるよう求めた大隈は、後半で東京専門学校を創立した理由を説明します。海外の知識を学ぶだけではなく、日本語で高度な学問を教え、研究できる環境を作ろうとしたのです。
個人が卒業後も学ぶという話と、自分たちの社会で学問を発展させるという構想が、同じ演説の中にあります。単なる成功哲学ではなく、教育機関の存在意義と卒業生の役割を結びつけている点に価値があります。
仕事・学習の判断に活かすなら
- 失敗の原因を「運が悪い」だけで片付けず、仮説、知識、実行条件に分けてみる。
- 失敗から学んだ内容を、次回の計画や判断へ具体的に反映する。
- 卒業や資格取得の後にも、資料・専門家・読書から学ぶ道を保つ。
- 失敗が許容できない場面では、無謀な挑戦より安全な検証を優先する。
出典判定と確認した版
判定:出典確認済み。 演説は1897年7月31日発行『早稲田學報』第5号に掲載された「第十四回得業証書授与式に於て」に対応します。今回確認した電子本文は1907年『大隈伯演説集』を親本とする2016年『大隈重信演説談話集』を底本としています。1897年の雑誌原本そのものを逐字校合したわけではありません。
- 青空文庫:大隈重信『学問の独立と東京専門学校の創立』:全文と刊行・初出の情報。
- 早稲田大学:創立記念特集:1897年の式典と発言の背景。
- 早稲田大学出版部『大隈重信と早稲田大学』:大学史の研究書と刊行情報。
- 出典監査索引:短い引用から原典をたどる入口。
