はじめに
「常識はそれほど一般的ではない(Common sense is not so common)」。ヴォルテールの名言として非常に有名です。
しかし、この簡潔な英語表現をヴォルテールがそのまま書いたわけではありません。『哲学辞典』の「常識(Sens commun)」の項目には、内容の近いフランス語の議論があり、1769年Cramer版『La Raison par alphabet』第2巻157〜159頁で読めます。英語の短文がこの文章と逐語的に同じという意味ではありません。
原文は「常識は非常に稀だ、と人は時々言う」
ヴォルテールは「On dit quelquefois, le sens commun est fort rare」と書きます。意味は「時に、常識は非常に稀だと言われる」です。1769年の当該頁とGarnier校訂版を照合できます。
重要なのは冒頭の「人は時々言う」。ヴォルテールはキャッチコピーとして断言して終わるのではなく、その言い回しを取り上げて「それは何を意味するのか」と考察を始めます。
問題は「誰にも常識がない」ことではない
続く議論では、ある分野では理性的に判断できる人が、別の分野では偏見によって大きく誤ることがあると説明します。原文では、計算や天文学に長けた人であっても別の事柄では他人の話を無批判に信じてしまう、という当時の宗教批判を含む例が登場します。原著には現代では偏見を含むと感じられる集団描写もあるため、これをそのまま現在の人々に当てはめるのではなく、判断における分野ごとの落差を読み取るのが適切です。
つまり「世の中はバカばかりだ」という皮肉ではありません。同じ人の中でも、理性が働く領域と偏見に止められる領域が共存するという観察です。
まとめ
「Common sense is not so common」は、ヴォルテールの文章を短く磨いた後世の表現と考えるのが適切です。
原典に戻ると、単なる毒舌ではなく「なぜ人はある問題では合理的なのに、別の問題では偏見に支配されるのか」という、より面白い問いが現れます。
出典状態:原文の近似句を確認/英語定型句は文言変化あり。Voltaire, « Sens commun », La Raison par alphabet, 6e éd., Cramer, 1769, tome 2, pp.157–159(校訂本文)。フランス語では「時々言われる」と断ったうえで考察し、英語の “Common sense is not so common” をそのまま書いたわけではありません。
『哲学辞典』の「常識」の議論をヴォルテールの思想全体と比較するには、ヴォルテールの人物・原典ガイドへ。「Common sense is not so common」は本人がそのまま英語で書いた一文ではありません。フランス語の原文は「常識は非常に稀だと時々言われる」と紹介してから考察を進めており、後世の短い定型句とは区別が必要です。