「すべてのことは『する』という動詞を無限に活用させることである」。トマス・カーライルの言葉として紹介されるこの一節には、確認できる英語原文があります。ただし、単純な「考えるより行動せよ」という成功訓とは、もともとの文脈が異なります。出典は歴史書『フランス革命史』。カーライルは、社会や世界が、過去・現在・未来の絶え間ない作用によって形づくられることを語っていました。
出典は『フランス革命史』第二巻・第三部第一章
該当箇所は、トマス・カーライル『The French Revolution: A History』(初刊1837年)の第二巻、Book III「The Tuileries」、Chapter I「Epimenides」にあります。公開されている後年の著作集本文で、次の英語表現を確認できます。
“The All of Things is an infinite conjugation of the verb To do.”
直訳に近づければ、「万物は、『する』という動詞の無限の活用形である」となります。従来の記事で使われていた「すべてのことは『する』という動詞を無限に活用させることである」は、この文の趣旨を伝えようとした日本語表現ですが、厳密な逐語訳ではありません。本記事では日本語表現を独自の訳・解釈として扱い、英語原文と区別します。
確認した本文:Wikisource「The Works of Thomas Carlyle」収録『The French Revolution』Vol. II, Book III, Chapter I。著作集を電子化したテキストであり、1837年初版本の現物を今回直接照合したものではありません。
前後を読むと「行動力」より広い意味が見える
カーライルはまず、宇宙には死んだまま、完全に停止したものはないと語ります。落ち葉が朽ちること、雲が動くこと、人間の言葉と行為も、力の働きとして連続しています。ここで彼は、「行われたこと」「いま行われていること」「これから行われること」を並べ、あらゆるものが作用の総体であるというイメージを描いています。
続いて、行為はなされた瞬間に消えるわけではなく、後の時代に作用を及ぼすとも述べます。つまりこの短句は、行動を増やすためのスローガンではなく、世界も歴史も、積み重なった行為と変化のなかにあるという見方の一部です。革命のような大きな変化を描く歴史書にこの文章があることは、解釈上重要です。
「活用」という比喩は何を示しているのか
conjugation は文法上、動詞が人称・時制などによって形を変える「活用」を表します。カーライルは「する」という一つの動詞が無数の形で現れるように、世界の出来事や人間の行為が多様な姿をとって続く、という比喩を用いたと読めます。
ここでの「無限」は、一人の人間が無制限に努力し続けることを要求する言葉ではありません。個人の根性論へ縮小してしまうと、自然、時間、社会の変化まで見渡した原文の射程が失われます。
行為が残ることは、成功が保証されることではない
行動には影響が残るとしても、その影響が望ましいものになるとは限りません。カーライルの文章には、行為の結果が予期しない方向へ広がりうるという厳しさも感じられます。「やれば必ず成功する」「行動しない人が悪い」といった結論は、この一文だけから導けません。
むしろ現代的に読むなら、何を始めるかだけでなく、その行為が周囲や未来に何を残すかを問い直す契機になります。
仕事や日常に引き寄せるなら
- 提案をするとき:「今すぐできるか」だけでなく、関係者や後工程にどんな影響を残すかを考える。
- 情報を発信するとき:一度広めた誤情報や不確かな断定は、後から訂正しても影響が残り得る。原典を確かめてから公開する。
- 小さな行動を選ぶとき:大きな成果を約束するのではなく、今日の選択が次の人の判断材料になるかを考える。
これらは原文から発展させた当サイトの解釈であり、カーライル自身が現代の仕事術として推奨した方法ではありません。
同じカーライルの別の言葉と読み比べる
カーライルの労働観をもっと具体的に読むなら、『過去と現在』の「一生の仕事を見出した人は幸い」を参照してください。また、『英雄と英雄崇拝』の「人は何かを信じて生きる」では、行為と信念の関係を別の角度から考えられます。同じ人物の短句でも、作品ごとに文脈を分けることが大切です。
出典と検証範囲
- 原著:Thomas Carlyle, The French Revolution: A History(1837年初刊)、Vol. II, Book III, Chapter I「Epimenides」。
- 本文確認:著作集に収録された英語本文の該当段落、および前後の叙述。
- 刊行年の裏づけ:米国人文科学基金(NEH)によるカーライル紹介。
- 未確認:1837年初版本と後年の著作集との文字単位の異同、既存の日本語流通訳の訳者・初出。日本語訳は当サイトによる解釈的な訳です。
結局、この言葉が促すのは、単なる「行動量を増やそう」という発想だけではありません。世界は行為と変化のつながりでできている。そのつながりに自分の行為も加わるのだと考えると、何をするかという問いは、少し深いものになります。
