はじめに
「地球は先祖から受け継いでいるのではない。子どもたちから借りたものだ」。環境保護の文脈で非常に有名なこの言葉は、サン=テグジュペリ名義で広く流通しています。
しかし今回の調査では、サン=テグジュペリの著作・書簡・主要資料に対応する原文を確認できませんでした。現在の研究では、サン=テグジュペリへの帰属は誤りと考えるのが妥当です。
現在形に近い確認例は1971年
この言葉の流通史を調べたQuote Investigatorは、現在の表現に近い初期例として、環境思想家ウェンデル・ベリーの1971年『The Unforeseen Wilderness』を挙げています。
そこでは、世界は父祖から与えられたものではなく、子どもたちから借りていると知る人について書かれています。
その後1970年代に、土地・地球・父祖・子どもという語を使う複数の変形が広がりました。サン=テグジュペリは1944年に死去しているため、この確認できる流通史とは年代的にも合いません。
「先住民のことわざ」とも断定できない
この言葉は「ネイティブ・アメリカンの古いことわざ」「アフリカのことわざ」などとしても紹介されます。
しかし特定の部族・言語・古い記録まで遡れる形で確立しているわけではありません。著名人だけでなく、曖昧な「先住民の知恵」へ作者を移すのも慎重であるべきです。
現時点では、1971年のウェンデル・ベリーに近似した確認例があり、その後さまざまな形へ変化した環境格言と見るのが安全です。
言葉の価値と作者名を分ける
誤帰属だからといって、この言葉の内容まで無価値になるわけではありません。
現在の世代が資源を使い尽くす権利を持つのではなく、次の世代へ渡す責任を持つという発想は、環境倫理を考えるうえで強い比喩です。
ただし、その価値を説明するためにサン=テグジュペリの権威を借りる必要はありません。良い言葉であることと、誰が言ったかは別問題です。
まとめ
「地球は先祖から受け継いでいるのではない、子どもたちから借りたものだ」は、サン=テグジュペリ本人の言葉としては確認できません。
現在形に近い初期例は1971年のウェンデル・ベリーまで遡ることができ、その後1970年代に複数の表現へ広がっています。
このサイトでは、サン=テグジュペリへの誤帰属として訂正しつつ、未来世代への責任というテーマ自体は残して読みます。
出典メモ:Saint-Exupéry作品に対応原文を確認できず。近似した初期例として Wendell Berry, The Unforeseen Wilderness, 1971.
サン=テグジュペリの人物ページへ → 本人の作品と後世の誤帰属を分けて読めます。