はじめに
「未来とは、あなたが予知しようとするものではなく、自分で可能にするものだ」。サン=テグジュペリの言葉として広く知られるこの表現には、『Citadelle(城砦)』に対応する文章があります。
ただし、現在流通する形は逐語的な原文ではありません。『Citadelle』では、より短く「未来は予測するものではなく、それを許す/可能にするものだ」という趣旨で書かれています。
さらに『Citadelle』は、サン=テグジュペリが完成させて刊行した本ではなく、死後に遺稿を編集して1948年に出版された作品です。この点も含めて読む必要があります。
原文は「未来を当てる」より「未来を許す」
確認できるフランス語は “L’avenir, tu n’as point à le prévoir mais à le permettre.” です。
日本語でよく見かける「自分で可能にする」という表現は、permettre を説明的に言い換えたものです。「未来を自分の意志で好きな形に作る」とまで強く言っているわけではありません。
むしろ、未来を完全に予測し支配しようとするのではなく、未来が生まれる条件を現在に整えるという読み方の方が原文に近づきます。
『Citadelle』は完成稿ではない
サン=テグジュペリは1930年代後半からこの作品を書き続けていましたが、1944年に飛行任務から帰還せず、完成させることはできませんでした。
公式資料によれば、残された大量の原稿は1948年に整理され、219章の形で刊行されました。章の順序や最終的な表現が、本人の完成形だったと断定することはできません。
そのため、この言葉はサン=テグジュペリ本人の遺稿にある文章ではありますが、「完成著作の中で確定した一文」と同じ扱いにはしない方が正確です。
未来を「予測」の問題だけにしない
この一節が面白いのは、未来を知識の問題から行為の問題へ移していることです。
何が起きるかを正確に当てることより、望ましい未来が生じうる条件を現在に用意する。人、組織、教育、技術、制度などについても、この考え方は応用できます。
ただし「予測は無意味だ」という極端な主張ではありません。予測だけで未来を作った気にならず、現在の行動まで含めて未来を考えることが中心です。
まとめ
「未来は予知するものではなく、可能にするもの」という流通形には、『Citadelle』の真正な文章が対応しています。
ただし原文はより簡潔で、現在の日本語は意訳です。また『Citadelle』は死後編集された未完成の遺稿である点にも注意が必要です。
未来を当てることより、未来が生まれる条件を今つくる。その方向で読むと、この言葉の価値を保ちながら原典へ戻れます。
出典メモ:Antoine de Saint-Exupéry, Citadelle, publication posthume, Gallimard, 1948.
サン=テグジュペリの人物ページへ → 飛行、『星の王子さま』『人間の土地』『Citadelle』、真正な文章と誤帰属をまとめて読めます。