都会の喧騒から


考えるための言葉と、働くための知恵を。

メニュー

サン=テグジュペリとは|飛行・『星の王子さま』『人間の土地』・名言と誤帰属

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(Antoine de Saint-Exupéry, 1900–1944)は、フランスの作家・飛行士です。『夜間飛行』『人間の土地』『戦う操縦士』『星の王子さま』などを書き、飛行経験を通じて、人間、責任、友情、連帯、死、希望を考えました。

一方、後世には「サン=テグジュペリらしい」環境格言や人生訓も大量に帰属されています。実際の作品の台詞、本人の散文、死後編集された遺稿、他人が序文に書いた文章、完全な誤帰属を分けないと、人物像そのものが変わります。

このページでは、作品と名言を原典へ戻しながら、作家・飛行士としてのサン=テグジュペリを読みます。

1900年リヨン生まれ――作家になる前に飛行士だった

サン=テグジュペリは1900年6月29日、リヨンに生まれました。1920年代から航空の世界に入り、郵便飛行のパイロットとしてフランス、北アフリカ、南米などを飛びます。

彼にとって飛行は、冒険を飾るための背景ではありませんでした。機械、天候、孤独、仲間、責任、死と向き合う実際の仕事が、作品の材料になります。

1926年に最初の文学作品「L’Aviateur」を発表し、1929年『Courrier Sud』、1931年『Vol de nuit』へ続きました。

『夜間飛行』――個人と使命をめぐる作品

『Vol de nuit(夜間飛行)』は、南米の郵便飛行を背景に、危険な任務を遂行する人間と組織を描きます。

この本には、アンドレ・ジッドが序文を寄せました。そのため後世に、「幸福は自由ではなく、義務の受容にある」というジッドの文章が、サン=テグジュペリ本人の名言として流通する例が生まれました。

本に載っている文章=本の著者が書いた文章とは限らない。名言の出典を考えるうえで重要なケースです。

『人間の土地』――飛行の経験から、人間の連帯を考える

1939年の『Terre des hommes(人間の土地)』は、飛行士としての経験をもとにした作品です。墜落、砂漠、仲間の救出、郵便飛行などを通して、人間が何によって結ばれるのかを考えます。

「愛するとは、お互いに見つめ合うことではなく、同じ方向を見ること」もこの作品にあります。

現在は恋愛格言として独立していますが、原典では、仲間が自分たちの外側にある共通の目的へ向かうことで結ばれるという文脈です。

サン=テグジュペリの愛や友情には、感情だけでなく、共同の行為・責任・目的が繰り返し現れます。

『星の王子さま』――誰の言葉なのかまで読む

1943年にニューヨークで出版された『Le Petit Prince(星の王子さま)』は、現在もっとも広く読まれている作品です。

しかし有名な言葉をすべて「サン=テグジュペリ本人の人生訓」として扱うと、作品の構造が消えます。

「言葉は誤解の源なんだ」を話すのはキツネ。「眼は盲目なんだ。心で探さないといけない」や、「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているから」を語るのは王子さまです。

作者が書いた言葉であることと、作者が一人称で自説として述べたことは別です。

『星の王子さま』作品ページでは、キツネ、王子さま、飛行士の言葉を分けて読めます。

「見えないもの」を、神秘的な標語だけにしない

『星の王子さま』では、目で見える数量・外見・所有と、関係によって生まれる価値が対比されます。

バラが特別になるのは、世界に一つしか存在しないからではなく、王子さまが時間を使ったからです。井戸の水も、単なる水分ではなく、砂漠を歩き、滑車を回し、二人で見つけた経験によって特別になります。

「心で見る」という言葉を、理性より感情が正しいという話に縮めるより、関係・時間・経験によって初めて見える価値があるという作品全体の構造で読む方が豊かです。

『Citadelle』――本人の文章だが、完成著作ではない

「未来は予測するのではなく、可能にする」には、『Citadelle』に対応する原文があります。

ただし『Citadelle』は、サン=テグジュペリの死後、残された大量の原稿を整理して1948年に刊行された作品です。

公式資料も、章の順序や最終形が本人の完成形だったとは限らないと説明しています。

したがって「本人の文章」と確認できても、本人が最終稿として出版した本の一節かどうかは別に考える必要があります。

「地球は子どもたちから借りる」は本人の言葉ではない

「地球は先祖から受け継いでいるのではなく、子どもたちから借りたものだ」は、サン=テグジュペリ名義で非常に広く流通しています。

しかし本人の作品には原典を確認できません。現在確認できる近い表現は1971年のウェンデル・ベリー以降に現れ、サン=テグジュペリの死後です。

環境倫理として意味のある言葉でも、作者名まで正しいとは限りません。

1944年――最後の飛行

第二次世界大戦中、サン=テグジュペリは偵察飛行へ復帰しました。

1944年7月31日、コルシカ島から偵察任務へ出撃し、そのまま帰還しませんでした。

飛行と危険を外からロマン化した作家ではなく、最後まで実際の飛行任務へ戻った人物でした。

『星の王子さま』から入るか、飛行の文章から入るか

『星の王子さま』から入るなら、作品ページへ。

未来と行動なら、「未来は予測するのではなく、可能にする」。

環境格言の誤帰属なら、「地球は子どもたちから借りる」は誰の言葉か。

共同目的としての愛なら、『人間の土地』「同じ方向を見る」。

ほかの人物から思想と言葉をたどる → 人物索引

参考資料

Antoine de Saint Exupéry公式サイトの人物・作品資料、『Terre des hommes』(1939)、『Le Petit Prince』(1943)、死後刊行『Citadelle』(1948)、André Gideによる『Vol de nuit』序文、および誤帰属の流通史資料を参照しています。