「アノミー(anomie)」は、社会学、とくにエミール・デュルケームの理論で重要な概念です。一般には「無規範状態」と訳されますが、単にルールが一つもない状態というより、社会が人々の欲望や期待を十分に規制できなくなった状態として理解するほうがデュルケームに近いでしょう。
アノミーの意味
社会には、「何を望むのが妥当か」「どこまで求めればよいか」「どんな行動が期待されるか」といった規範があります。デュルケームにとって、こうした社会的規制は人間の欲望へ限界を与える役割を持っていました。
経済や社会が急激に変化し、既存の規範がうまく働かなくなると、人々は何を基準に期待や行動を調整すればよいのか分かりにくくなります。これがアノミーという問題です。
デュルケームはいつ使ったのか
デュルケームは1893年の『社会分業論』でアノミーの概念を導入し、1897年の『自殺論』でさらに展開しました。
『社会分業論』では、社会の分業が急速に変化する一方で、それを調整する規範や関係が十分に形成されない状態が問題になります。『自殺論』では、社会的規制の低下と「アノミー的自殺」が結びつけられます。
「社会的つながりが弱いこと」とは区別する
旧記事では、アノミーを「社会的なつながりが薄れ、孤立する状態」とかなり広く説明していました。しかしデュルケームの『自殺論』では、社会的統合と社会的規制は別の軸として考える必要があります。
つながりが弱いことは、デュルケームが「利己的自殺」と結びつけた社会的統合の問題です。一方、アノミー的自殺は、社会的規制が弱まり、欲望や期待を方向づける基準が崩れることと関係します。
不況だけでなく、急な繁栄でも起こり得る
アノミーは「貧しくなった社会だけ」の問題ではありません。デュルケームは、急激な経済危機だけでなく、急な繁栄や大きな変化も、従来の期待水準や規範を揺さぶる可能性があると考えました。
重要なのは変化が良いか悪いかではなく、社会的規制がその変化へ追いついているかです。
アナーキーとは違う
語源的には「法がない」という意味に近い背景がありますが、社会学でいうアノミーを政治的な「アナーキー(無政府)」と同一視するのは適切ではありません。アノミーは、社会の規範的な調整・規制が十分に機能しない状態を分析する概念です。
現代に引き寄せて考えるなら
制度や技術が急速に変わるとき、「できること」は増えても「何を目指せばよいか」の基準が追いつかないことがあります。アノミーは、そうした変化と規範の速度差を考えるための言葉として今も使えます。
ただし、個人の不安や孤独を何でも「アノミー」と呼ぶのではなく、社会的な規制・規範の変化との関係を見ることが大切です。
確認した資料
- Encyclopedia.com “Anomie”(デュルケームの『社会分業論』『自殺論』における位置づけ)
- Dohrenwend (1959), “Egoism, Altruism, Anomie, and Fatalism”
ほかの社会・思考概念は、概念から考えるページからたどれます。