都会の喧騒から


考えるための言葉と、働くための知恵を。

メニュー

「感情は絶対的で、嫉妬は最も絶対的」はドストエフスキーの言葉?|『人妻とベッドの下の夫』と版の問題

はじめに

「感情は絶対的である。そのうちでも嫉妬はこの世で最も絶対的な感情である」という言葉は、ドストエフスキーの名言として広く流通しています。

引用集では、初期の喜劇的作品『人妻とベッドの下の夫』に由来する言葉として紹介されることがあります。

しかし現在の監査では、標準的に読まれている1860年の統合版本文に、この日本語・英訳にそのまま対応する逐語的な一文を確認できませんでした。

作品そのものは「嫉妬」を中心にしている

この作品が嫉妬と無関係というわけではありません。

物語では、嫉妬に駆られた夫が妻の不貞を疑い、別人の家やベッドの下へまで入り込む滑稽な騒動が描かれます。

標準的な本文の終盤にも、嫉妬を「許しがたい情念」、さらに「不幸」と呼ぶ趣旨の語りがあります。

したがって、嫉妬を人間を支配する強い情念として描く作品であること自体は確かです。

1848年版と1860年版で本文が変わっている

さらに、この作品には本文上の複雑さがあります。

1848年には「人妻」と「嫉妬深い夫」という別々の作品として発表され、後に1860年版で一つの作品へ統合されました。

統合の際には、第二の作品の導入部が削られ、会話や文章にもかなりの修正が加えられています。

そのため、現在流通する「嫉妬は最も絶対的な感情」という文が、初期版や別訳のどこかに対応する可能性までは否定できません。しかし、確認できていない可能性を「原典あり」へ格上げすることもしません。

現時点の判定

この言葉については、「完全な誤帰属」と断定するのも、「ドストエフスキーの逐語的な名言」と断定するのも早い状態です。

作品とのテーマ上の結びつきは強く、引用集でも同作へ帰される例があります。一方、現在確認した標準本文では同じ文言を確認できません。

したがって判定は、『人妻とベッドの下の夫』との関連は有力だが、現在の流通文は文言変化・要検証とします。

嫉妬を心理学の法則へ変えない

旧記事では、嫉妬が理性を凌駕する「最も絶対的な感情」であることを、現代心理学の一般法則のように解説していました。

しかし、まず確認できるのは、ドストエフスキーが初期の喜劇作品で嫉妬に翻弄される人間を徹底的に滑稽化したことです。

「嫉妬は世界で最も強い感情である」という科学的順位まで作品から導く必要はありません。

まとめ

「感情は絶対的で、嫉妬は最も絶対的」という言葉は、ドストエフスキー名義で流通し、『人妻とベッドの下の夫』へ帰される例があります。

しかし、標準的な1860年本文で同じ逐語句を確認できず、作品自体にも1848年版から1860年版への大きな改稿があります。

現時点では、作品との関連は有力だが、現在の定型句は要検証として扱います。

出典メモ:Fyodor Dostoevsky, Another Man’s Wife and a Husband Under the Bed. Standard 1860 combined text confirms the central role of jealousy and calls it an “unforgivable passion” / “misfortune,” but the exact circulating sentence was not located. The 1848 originals and 1860 combined version differ materially.

ドストエフスキーを人物から読む

フョードル・ドストエフスキー人物ページでは、『悪霊』『地下室の手記』『白痴』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』を横断し、登場人物の思想と作者の声を区別して読めます。

この記事の先へ

このサイトには、考えるための言葉と、働くための知恵をたどる入口があります。

名言・思想 | BtoBマーケティング | キャリア・仕事

名言・思想は、人物・作品・テーマ・概念・出典からも探せます。

運営者・記事の編集方針を見る →