「友のために死ぬより友を見つけるほうが難しい」|ホメロスとケイムズ卿の出典

「友のために死ぬことより、命をかける価値のある友を見つけるほうが難しい」。この言葉は古代ギリシャの詩人ホメロス(ホメーロス)に帰されることがあります。しかし、その英語の定型句を確かめると、スコットランドの思想家ヘンリー・ホーム(ケイムズ卿、1696〜1782)の著作に結びつけた、はるかに具体的な古い引用記録があります。友情についての意味を読む前に、言葉そのものの出典と、ホメロスの叙事詩に登場する友情の物語を区別しましょう。

英語の流通句はホメロスの名で広まっている

BrainyQuoteなどの名言サイトでは、The difficulty is not so great to die for a friend, as to find a friend worth dying for. という英語がホメロス名義で掲載されています。ただし、引用サイトの人物名は、原語のギリシャ語テキスト、作品名、巻、詩行番号を示していません。古代の作家が生きた時代に英語でこの言葉を書いたわけではないため、もし真正な引用なら、どのギリシャ語の一節を翻訳したのかという情報が必要です。

旧記事は『イリアス』のアキレウスとパトロクロスの関係を、この定型句の成立事情であるかのように紹介していました。たしかに『イリアス』は戦いの中の友情、喪失、復讐を大きな主題の一つとして描きます。しかし、叙事詩に友情の主題があることと、この英語・日本語の一文がホメロス本文に書かれていることは別です。

古い資料はケイムズ卿『思考術入門』のページを指している

19世紀の英語文法書グールド・ブラウン『The Grammar of English Grammars』の例文には、同じ英文が引用され、出典を Kames, Art of Thinking, p. 42 と明示しています。そこには文法上省略されている語を角括弧で補う編集上の説明もありますが、核心となる比較表現は流通句と一致します。これは、単に現代の名言サイト同士が人物名を写し合っているケースとは異なり、著者・作品・ページの三点を挙げた古い照合資料です。

この「Kames」は、スコットランドの法学者・哲学者ヘンリー・ホーム、通称ケイムズ卿です。彼の『Introduction to the Art of Thinking(思考術入門)』は1761年に刊行されており、Google Play Booksの書誌とデジタル版でも著者・刊年を確認できます。ただし、今回の調査では1761年初版の42ページの版面そのものを直接確認していません。したがって「1761年の初版42ページの文面まで独自に校合した」とは記しません。

後の名言集でもヘンリー・ホームに帰されている

ルイス・クロプシュ編『Many Thoughts of Many Minds』の公開本文では、同じ友情の一文を Henry Home の名で掲載しています。ケイムズ卿の名を掲げた別の引用資料でも、「Friendship」の項目で同じ英文が紹介されています。これらの資料によって、少なくともホメロスへの帰属とは独立した、ホームを出典とする引用の流れが確認できます。

とはいえ、古い引用記録が存在するだけで、ホームがその思想を史上最初に発明したと証明できるわけではありません。本人の初版と前後の典拠をさらに確認する余地はあります。記事では「ホームの著作に帰す有力な証拠がある」「ホメロスの原典は未確認」と表現し、確かさの水準を混ぜないようにします。

『イリアス』のアキレウスとパトロクロスは何を示すか

ホメロスの『イリアス』第18巻では、パトロクロスの死を知ったアキレウスが深く嘆き、自らの死の危険を承知のうえで戦いへ戻る決意を語ります。これは友への思い、悲しみ、名誉、復讐が結びついた物語として読むことができます。英語訳などの本文は、タフツ大学のPerseus Digital Libraryで確認できます。

しかし、この情景を「友のために死ぬより価値のある友を見つけるほうが難しい」の出典だと置くのは適切ではありません。『イリアス』の人物と行動を説明するときは、叙事詩の巻と行を参照し、後世の警句と比較するときには二つを独立した文章として扱う必要があります。

この一文は、友情のどんな難しさを表すのか

流通する日本語から読み取れるのは、強い決意を示す劇的な行動と、その決意を向ける相手を見いだす難しさの対比です。誰かのために身を投じる覚悟があっても、その覚悟を託すにふさわしい信頼を築くのは簡単ではない、という意味に読めます。

ただし、これは命をかける行為を理想的な友情の尺度にしようという話ではありません。現代の生活では、友人を助ける方法には相手の話を聞くこと、長く関係を保つこと、互いの安全と尊厳を守ることなども含まれます。「命をかけられないなら本当の友人ではない」と判断する必要はありません。これらは流通句に対する編集上の応用であり、ホメロスまたはホームの固有の思想を確定するものではありません。

まとめ:友を大切にするなら、言葉の出典も大切に

「友のために死ぬより、命をかける価値のある友を見つけるほうが難しい」という句をホメロスへ帰す名言サイトはありますが、叙事詩の原文箇所は特定されていません。一方、ヘンリー・ホーム(ケイムズ卿)『Introduction to the Art of Thinking』のページを明記した古い引用資料があります。ホメロスの物語が示す友情と、ケイムズ卿に結びつく警句を混同しないことが、記事を読み解く第一歩です。初版の該当ページは未照合のため、出典状態は「要検証」とし、本文の直接確認後に更新します。

参照資料と未確認事項

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