「噂をすれば影が差す」は、ある人の噂をしていると、ちょうどその本人が現れるという意味のことわざです。「噂をすれば影」と短く言うこともあります。
「噂をすれば影が差す」の意味
友人について話していたら本人が店に入ってきた、同僚の話をしていたらその人が会議室に現れた。そんな偶然を、少しおかしみを込めて表す言葉です。
ここでの「影」は、本人の姿が現れることを表します。噂が人を実際に呼び寄せるという意味ではなく、話題にした直後に本人が現れる偶然を言い表す慣用的な表現です。
確認できる古い記録
『精選版 日本国語大辞典』では、この表現について1786年の『譬喩尽』を挙げています。また、1813〜23年の滑稽本『浮世床』には、現在の言い方に非常に近い実例が確認されています。
『浮世床』は式亭三馬による滑稽本で、江戸の床屋を舞台に人々の会話や世相を描いた作品です。日常会話のなかにこの表現が現れることから、少なくとも江戸後期には、人の噂と本人の登場を結びつける言い回しとして使われていたことが分かります。
ただし、1786年をこのことわざの「誕生年」と断定することはできません。文献に記録された時点より前から、口頭で使われていた可能性もあります。ここでは確認できる古い記録として扱います。
語源について、言い過ぎない
旧記事では「古代日本社会の強い結びつき」や「心理的な期待」が語源の背景にある、と説明していました。しかし、今回確認した辞書資料から、そこまでの由来を断定することはできません。
確実に言えるのは、人の噂をしている最中に本人が偶然現れる、という日常的な経験を表した言葉であり、その用例が江戸時代の資料に確認できることです。由来をもっともらしい物語で補うより、分かっている範囲を明確にするほうが、この言葉の歴史には誠実です。
使い方の例
- 「ちょうど田中さんの話をしていたんだ。噂をすれば影だね」
- 同僚の噂をしていたところ本人が現れ、「噂をすれば影が差すとはこのことだ」と笑う。
- 誰かについて否定的な話をしている場面で、本人が来るかもしれないとたしなめる。
似た表現と、現代の読み方
このことわざは、偶然の一致を面白く切り取る言葉です。同時に、「本人がその場に来ても言える話か」という小さな倫理も含ませて使えます。
噂話そのものを禁じる言葉ではありませんが、誰かが不在だから何を言ってもよいわけではない。そう考えると、江戸の会話表現でありながら、SNSやチャットの時代にも意外と古びていません。
確認した資料
- コトバンク「噂をすれば影」(デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典)
- imidas「噂をすれば影が差す」(意味・出典として『浮世床』を掲載)
編集上の注意:古い文献例は確認できますが、このことわざが最初に生まれた時期・場所まで確定したものではありません。
言葉をほかの問いとつなげて読みたい場合は、テーマから思想を探すこともできます。
ほかのことわざ・慣用句は、ことわざ・故事から考えるへ。