はじめに
「われわれは、自分の持っているものについては、たまにしか考えないで、常に自分に欠けているものを考える。」これはショーペンハウアーの真正な文章として確認できます。
ただし、原典での意味は単純な「感謝を忘れないようにしよう」ではありません。ショーペンハウアーは、人間が不足へ注意を向ける仕組みそのものが、満足を壊すことがあると論じています。
なぜ人は「ないもの」を見るのか
原文では、この傾向を自己保存の衝動と結びつけています。足りないものへ注意を向ければ、それを手に入れるために行動できます。その意味では合理的です。
しかし何かを手に入れた瞬間、それへの注意は弱まり、次の不足へ意識が移ります。その結果、目的を達成するための仕組みが、最終目的である満足そのものを損なう。ここがこの文章の面白いところです。
「感謝すれば幸せ」という話だけではない
旧記事では感謝日記などへ話を広げていました。それは現代的な実践として考えることはできますが、ショーペンハウアー本人がここで述べている内容とは区別すべきです。
彼が観察しているのは、人間の注意が「すでにあるもの」より「まだないもの」に引き寄せられるという構造です。富についての「海水」の比喩ともつながります。
まとめ
この言葉はショーペンハウアーの真正な文章です。そして核心は、単なる感謝のすすめではありません。
不足を探す能力は生存には役立つが、それが止まらなければ満足できなくなる。欲望と幸福の関係を考え続けたショーペンハウアーらしい逆説が、この短い一文に表れています。