はじめに
「勝とうと決心すれば、最悪でも負けない状態にはなる。負けたくないなと思ったら負ける」という言葉は、日本語圏でニッコロ・マキャヴェッリの名言として広く紹介されています。
しかし現在の監査では、『君主論』『ディスコルシ』など主要な一次資料に、この日本語へ逐語的に対応する確実な原文を特定できませんでした。
したがって、現時点では「マキャヴェッリの確定名言」と断定しません。
日本語の名言集では以前から流通している
この言葉は、日本の名言集、学校・スポーツ関係の記事、マキャヴェッリを紹介する文章などで長く引用されています。
そのため、近年インターネット上で突然作られた一文とは言い切れません。
一方で、引用元として作品名・章・イタリア語原文まで示す例は乏しく、現在確認できる流通例だけでは一次出典の証明になりません。
『ディスコルシ』には似た問題意識がある
マキャヴェッリ本人が、勝利・敗北・決断について繰り返し論じていることは確かです。
たとえば『ディスコルシ』第2巻第27章では、勝利後にさらに大きな成果を欲張ることで、すでに得た確実な利益まで失う危険を論じます。
また別の箇所では、決断を遅らせ曖昧な態度を取り続けることが、かえってどちらの側からも利益を得られない結果につながると論じます。
しかし、「勝とうと決心すれば負けない」という現在の定型句と、これらを同一の文章だとみなすことはできません。
「ポジティブに考えれば勝てる」という思想ではない
旧記事では、この言葉を自己信頼、ポジティブ思考、モチベーションの重要性として解説していました。
しかし、マキャヴェッリの政治・軍事論は、気持ちだけで勝敗が決まるというものではありません。
状況、軍事力、機会、時代との適合、同盟、決断の時期など、外部条件を冷徹に見ています。
この流通句を読む場合も、「前向きな気持ちが勝利を引き寄せる」という意味をマキャヴェッリ本人へ帰属させるのは避けるべきです。
現時点の判定
この一文はマキャヴェッリ名義で日本語圏に広く流通していますが、一次資料へ逐語的に戻せていません。
そのため判定は、帰属要注意・原典未確認です。
将来、信頼できる版・書簡・翻訳元などから対応箇所が特定できれば、判定を更新します。
まとめ
「勝とうと決心すれば、最悪でも負けない」は、マキャヴェッリ名義で知られる言葉ですが、現在の監査では確実な一次出典を特定できません。
マキャヴェッリが勝敗や決断を論じた文章は実在します。しかし、似た思想があることと、現在の日本語句が本人の逐語的な言葉であることは別です。
出典メモ:日本語の二次資料にマキャヴェッリ名義で多数の流通例あり。主要な一次資料では現在の定型句に対応する原文を現時点で特定できず。
マキャヴェッリを人物から読む
ニッコロ・マキャヴェッリ人物ページでは、『君主論』『ディスコルシ』、共和政、運命、virtùと、後世の流通名言・誤帰属を区別して読めます。