はじめに|「失敗は恐れてはいけない」は本人の言葉か
「失敗は恐れてはいけない。失敗しない人は成功もできない」。ノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇の言葉として広まる表現です。以前の当サイトでは、研究者としての考え方は確認できる一方、この定型句そのものの原典は未特定と案内していました。しかし今回、赤﨑本人への対談を掲載した月刊『致知』2015年9月号の内容に、対応する一節を確認できました。
重要なのは、言葉が本物だと分かったことだけではありません。直前のやりとりには、研究中の数多くの失敗をどう受け止め、次に何を変えたかという説明があります。言葉の出典と、その意味を読み解くための文脈を結びつけて紹介します。
月刊『致知』2015年9月号の対談で本人が語っている
致知出版社の2021年10月8日公開記事は、月刊『致知』2015年9月号掲載の赤﨑勇と下村博文の対談を一部抜粋して再公開したものです。記事の中には、赤﨑が若い人にしばしば伝えている言葉として、失敗を恐れないこと、失敗しなければ成功にも至れないことを述べる箇所が掲載されています。
本人が発言した内容を対談として誌面に掲載した出版社自身の資料であるため、名言だけを転載した二次サイトよりも、本人帰属を確認する根拠として強い資料です。一方、公開されたのは抜粋・編集記事であり、2015年の収録音声や初稿と一字一句照合したわけではありません。
現在の出典判定は「本人の発言として出版社の対談掲載を確認済み/2015年誌面の版面・収録音声の直接照合は未了」です。「初出は2021年」と書くのは不正確であり、2015年9月号への掲載と2021年のウェブ再公開を区別する必要があります。
対談で語られたのは、失敗の回数より経験の蓄積
対談相手の下村博文が青色LEDの研究で数多くの失敗を重ねたことに触れると、赤﨑は、それを経験の蓄積として捉えていることを説明します。試行錯誤を重ねるほど見当違いの失敗が減り、その経験が自身の財産になっていくという考えです。
ここでの教訓を「失敗した数だけ自動的に成功に近づく」と読み替えるのは適切ではありません。失敗から何を確かめ、次の判断や実験にどう生かすかという過程が、対談の文脈では大きな意味を持ちます。
赤﨑は対談の後半でも、遠回りしたように見えた半導体研究が、その後の青色LEDにつながったと振り返っています。すべての失敗が直ちに成功へつながったわけではなく、過去の経験を結びつけて研究を続けたことが分かります。
青色LEDの研究は、どんな挑戦だったのか
赤﨑は窒化ガリウムという材料の結晶成長などに取り組み、青色発光ダイオードの実現に重要な成果を残しました。2014年には天野浩、中村修二とともにノーベル物理学賞を受賞しています。研究の歴史的意義はノーベル賞公式サイトの2014年物理学賞概要で確認できます。
科学技術振興機構のScience Portalによる2021年の追悼記事には、赤﨑が若い世代へ、失敗を糧にしながら関心のあることを探す姿勢を語った様子も記録されています。これは2015年の対談とは別の場面であり、別の場の発言を一つの長い名言として合成しないことも大切です。
研究開発は費用や安全性、倫理面の制約の中で進みます。失敗を恐れず試すことと、必要な準備や安全管理を省くことはまったく異なります。科学の挑戦を語るときにも、この区別は欠かせません。
仕事や学びへ応用するなら、振り返り方を変える
仕事で予想した結果が得られなかった場合、その事実だけで「成功につながる失敗だった」と決めることはできません。何を試し、どこに予想との違いが生まれたかを記録し、次に変える条件を考えることで、経験が学びにつながる可能性があります。
学習でも同じです。間違いを避けようとして一切挑戦しなければ、難しい課題に取り組む機会を失うかもしれません。ただし、体調や安全を損なうような無理を「失敗を恐れるな」と正当化するべきではありません。慎重さと挑戦は両立できます。
これらの例は当サイトによる現代的な解釈です。赤﨑が具体的な業務管理手法や学校の指導方法を、この対談で述べたものではありません。
まとめ|出版社の本人対談まで出典を遡れた
赤﨑勇の「失敗は恐れてはいけない」という言葉は、月刊『致知』2015年9月号から2021年に再公開された本人対談に対応する一節を確認できました。従来の「複数の名言サイトで一致」という段階から、本人発言の掲載を確認した段階へ、出典判定を更新できます。
同時に、言葉が語られた背景には、失敗を経験の蓄積として生かすという研究者の考えがあります。「失敗すれば必ず成功する」という保証ではありません。出典が確かな言葉ほど、文脈を省かずに紹介することが大切です。
確認資料:致知出版社「失敗というのは本当は失敗ではない」(2021年10月8日公開、2015年9月号対談から抜粋・編集)、ノーベル賞公式2014年物理学賞概要、JST Science Portalの追悼記事。引用の判定方法は出典ステータスの読み方を参照してください。