都会の喧騒から

考えるための言葉と、働くための知恵を。

岡本太郎「なんでもいいから、まずやってみる」|『強く生きる言葉』の出典と試す意味

「なんでもいいから、まずやってみる。それだけなんだよ」。岡本太郎の言葉として広く読まれています。言葉だけを見ると、考えずに思い切って飛び込むことを勧めているように聞こえるかもしれません。しかし、川崎市岡本太郎美術館が言葉の掲載書籍を示した教材を見ると、この短文は『強く生きる言葉』に由来するものとして扱われています。何を「まず」始めるのか、試してから何を確かめるのかを考えます。

川崎市岡本太郎美術館が明示した出典

同美術館が公開する「岡本太郎と過ごす2022―太郎さんの言葉2―」の2ページ目には、この短文が掲載されています。出典として挙げられているのはイースト・プレス刊『強く生きる言葉』(2003年)です。著者名だけを記した名言サイトと異なり、公的な美術館資料に書名と刊行年が示されています。

出版社イースト・プレスの公式著者ページでも、2003年の『強く生きる言葉』と2005年の『壁を破る言葉』の書誌が確認できます。国立国会図書館の『強く生きる言葉』の書誌は、岡本太郎著・岡本敏子構成監修、2003年刊と記しています。

別の読書記録では、同じ表現が2005年の『壁を破る言葉』15ページに載っていると紹介されています。複数の編集言葉集に採用された可能性がありますが、今回、該当本の現物を並べて照合したわけではありません。まずは美術館が明示した2003年の本を基準に扱い、最初の発話日時や元の録音などは未特定とします。

死後に編集された言葉集という性質も重要

岡本太郎は1996年に亡くなりました。『強く生きる言葉』は2003年刊、『壁を破る言葉』は2005年刊なので、いずれも本人の死後に編まれた書籍です。出版社や国立国会図書館の書誌によれば、岡本敏子がその言葉を構成・監修したことが分かります。

したがって、岡本が2003年にこの発言をした、あるいはこの短文を2005年に新たに書き下ろしたと説明するのは誤りです。出典となる書籍を確認できても、その言葉を本人がどこで最初に語ったのかは別の問題です。この違いを理解しておくことが、名言記事の信頼性につながります。

「まずやる」は、完成を急ぐという意味ではない

やってみたいことがあっても、最初から完成の形や周囲の評価を考えすぎると、何も試せないまま時間が過ぎることがあります。小さな習作をつくる、初めての材料に触れる、短い文章を書いてみる。そうした行動は、作る前には分からなかった発見につながります。

「それだけ」と言っても、本当の創作ではその後の工夫がなくなるわけではありません。表現したいことが変化すれば、素材や方法も変えられます。まず手を動かし、できたものを見て考える。その繰り返しが試作の価値です。

岡本の別の言葉には「伝えたいものを知る」がある

川崎市岡本太郎美術館の同じ教材には、1993年刊の『自分の中に毒を持て』から、「何を伝えたいか」が分かれば技術が後からついてくるという趣旨の言葉も掲げられています。

一方はまず始めること、もう一方は表現したい内容を見極めることです。一見反対に見えるかもしれませんが、制作の始め方としてはどちらもあり得ます。何をしたいか分からないときに小さく作ってみることも、伝えたいことを決めてから方法を調べることも、創作の過程に含まれます。

重要なのは、言葉を一つだけ絶対の手順にしてしまわないことです。岡本自身の作品でも、制作の発端と完成までの過程を一つの格言だけで説明できるわけではありません。

「なんでもいい」は危険なことでもよい、ではない

この言葉を、十分な知識がなくても危険な行為へ飛び込むよう勧める説明にしてはいけません。設備や人体へ影響する技術には、安全確認や専門家の助言が必要な場合があります。また、他人の権利を侵害する実験を正当化するものでもありません。

たとえば文章であれば一段落を書くことから始められますが、建築物や薬品などに関わる制作では、まず情報を集めることや実習環境を整えることが最初の一歩となるでしょう。実際に何ができるのかは分野ごとに違います。

小さく試すときの四つの問い

  • 何が気になっていて、何を一度試してみたいのか。
  • どこまでなら安全に失敗できるか。必要な準備はあるか。
  • 最初の試みから、何が分かれば次へ進めるか。
  • うまくいかなかったとき、別の方法や別の問いへ変えてもよいか。

これは岡本太郎が残した四原則ではなく、創作上の試みを日常の仕事や学習へ置き換えた編集上の整理です。

出典確認の範囲と参考資料

短い文言の掲載と2003年刊『強く生きる言葉』への帰属は美術館の公式教材で確認できました。発話当時の録音や原稿、当該書籍のページ位置は未照合ですが、出典の確認状態は「出典確認済み」で管理します。なお、言葉集の刊行年を発言年と混同しないよう明記しています。

関連記事

この言葉と一緒に考えたいのが「技術は後からついてくる」です。こちらは表現したい内容と技術の関係を扱います。「壁は自分自身だ」は内面の思い込みと現実の障害を区別します。出典ステータスガイドもご覧ください。

岡本の「まずやってみる」は、何も考えず突き進むことではなく、まだ分からないものに小さく触れ、試して確かめるための呼びかけとして読むことができます。行動を通じて新しい問いが生まれる、その最初の一歩へ視線を向けた言葉です。

ほかの記事を探す

人物や作品を詳しく読むなら、それぞれの一覧へ。仕事の記事は分野から選べます。キーワードで探したい場合は、下の検索欄をご利用ください。

記事の記述・出典に誤りや疑問点がありましたら、お問い合わせから該当記事のURLと確認できる資料をお知らせください。内容を照合し、必要に応じて訂正します。

編集方針と運営者について →