「キャラクターをつくるとき、設定を重視する?」。鳥山明からそう尋ねられた尾田栄一郎は、まず「ノリですね」と答え、続けて「ノリは大切にします」と語ったと伝えられています。一見すると、キャラクターをつくるのに細かな設定など要らない、思いつきで描けばよいと言っているようにも聞こえます。しかし、対談の続きには、キャラクターの第一声から人物像が育つという、もっと具体的な創作の話がありました。
今回、尾田と鳥山の対談を紹介する2010年の転載記事を確認し、集英社公式の書誌で対談の収録先となる『ONE PIECE イラスト集 COLOR WALK 1』を特定しました。ただし、書籍の該当ページを直接読んで全字句を照合できたわけではありません。出典候補と文言の確認範囲を明示しながら、キャラクターが動き始める瞬間の意味を考えます。
対談の収録先は『COLOR WALK 1』
集英社の公式書誌によれば、2001年7月19日発売の『ONE PIECE イラスト集 COLOR WALK 1』には、カラーイラストや製作秘話とともに、鳥山明と尾田栄一郎の特別対談が収録されています。単行本ではなく、イラスト集に入った対談です。
2010年の対談転載記事には、今回の問答に相当する文章が載っています。そこでは鳥山が「設定を重視するほう?」と尋ね、尾田はノリを大切にすると答えた後、新しいキャラクターを落書きのように描くと、自然にセリフを書いている、と説明しています。そして、最初にそのキャラクターが話した言葉が、後まで人物像に生きてくるという趣旨が続きます。
引用サイトには「いや」と「いゃ」など小さな表記差があり、転載記事自体にも誤字と思われる箇所が見られます。集英社の公式書誌は対談の存在を確認できますが、今回の短い発言のページ位置や正確な表記まで確認できるものではありません。出典候補が具体的に分かっていることと、逐語の原本照合が済んでいることは区別します。
「ノリ」は、設定を考えないことではない
漫画の登場人物には、名前、外見、過去、能力、人間関係など、多くの設定があります。これらは物語を構成するうえで重要です。それでも、設定を先に大量につくれば必ず魅力的な人物になるとは限りません。
対談での尾田の説明は、まず手を動かして人物の姿を描き、その人物がどんな言葉を発するかを考える、という流れでした。そこで書かれた第一声が、後からキャラクターの性格を形づくる手掛かりになる。つまり、キャラクターに関するすべての情報を最初に固定するのではなく、描きながら生まれる反応や言葉によって人物を発見していく方法です。
この方法なら、設定とノリは敵同士ではありません。まず人物の声や行動の勢いを捉え、その後で矛盾を調整し、作品全体の中で位置づけ直すこともできます。ただし、ここで述べる後半の制作工程は当サイトの考察であって、尾田が対談で具体的にその順番まで説明したと断定するものではありません。
なぜ「最初のセリフ」が人物像を変えるのか
登場人物が何を考えているかを読者に説明することはできます。しかし人物が発したひと言には、思考以外の手掛かりも含まれます。言葉遣い、反応の速さ、冗談を言うかどうか、誰に強く出るか。そこから読者は、その人物がどんな人なのかを推測します。
例えば、困った状況で最初に他人を心配する人物と、まず自分の身の安全を確認する人物とでは、同じ「勇敢な主人公」という設定でも印象が変わります。設定は人物の説明であり、セリフは人物が物語の中で行動する証拠にもなります。
尾田の話から受け取れるのは、キャラクターの魅力がプロフィールの箇条書きだけで決まるわけではないということです。この人ならどう答えるか、どう反応するかという問いが、描き手にとって人物の輪郭を強くする場合があります。
鳥山明との対話だったことにも意味がある
この言葉を尾田の単独インタビューの名言として紹介すると、制作方法をひとりで宣言したように見えてしまいます。しかし実際の紹介記事では、鳥山が自分の作品について質問を受ける場面や、尾田の発想に鳥山が反応する場面が続いています。互いの漫画づくりを語り合う、創作者同士の対談です。
集英社のイラスト集であることも重要です。公式紹介にはイラスト77点と制作秘話が収められるとあります。絵を描く技術だけでなく、そこから物語や人物がどのように生まれるかという話題は、対談の場に自然に結びつきます。
対談の断片だけから、「尾田は設定を一切つくらない」「鳥山と同一の制作方法だった」と結論づけることはできません。原本の会話全体や掲載時の見出しを確認できれば、さらに細かなニュアンスを検証できます。
創作で行き詰まったときの使い方
人物を考えているのに特徴が浮かばないときは、設定表を埋める作業だけでなく、その人が実際に何かを話す場面を一つ書いてみる。見知らぬ場所へ入ったら最初に何と言うか。大切なものを失ったときに、誰へどう伝えるか。そうした短いやり取りが、人物の思いがけない一面を教えてくれることがあります。
文章を書くときにも似た方法が使えます。見出しをすべて決める前に、冒頭の一場面や会話を書いて、作品が進もうとする方向を探ってみる。逆に、書き進めた後で構成の整合性を確認する必要もあります。ノリによる発見と構造的な見直しは、対立させるより組み合わせたほうが役立つでしょう。
これは、対談の趣旨を参考にした当サイトの実践的な読み方です。漫画を描く人すべてに通用する唯一の方法だとか、勢いだけで創作が完成するという意味ではありません。
旧記事のどこを改めたか
旧記事は「ノリ」を、人生全般でインスピレーションや情熱を大切にすれば成功できる、という一般論に広げていました。出典候補のイラスト集や、鳥山との問答、第一声がキャラクターを形づくるという続きの話は示されていませんでした。今回、原典を探る手掛かりと実際の創作手法を中心に据え、根拠のない作者心理の断定を減らしました。
参考資料と出典判定
出典判定:要検証(原典候補と文脈は判明、原本の逐語照合は未実施)。① 集英社『ONE PIECE イラスト集 COLOR WALK 1』公式書誌(2001年刊、鳥山明との対談を収録)。② 「鳥山明×尾田栄一郎対談」転載記事(2010年。今回の言葉と前後を掲載する二次資料で、原本ではありません)。
関連する創作の視点は「漫画の基本は読者を楽しませること」でも扱っています。ほかの名言の確認状況は出典監査索引を参照してください。
