小田和正「好きだと感じるものを作品にする」|2014年対談で語った創作と観客

「自分が好きだと感じるもの」を積み重ねながら作品にして、同じ時代を生きる人たちへ届けたい。シンガーソングライター・小田和正のこの言葉は、自分の感性を大切にするというだけの創作論ではありません。2014年、生命保険会社の経営者との対談で「長く人と向き合うこと」が話題になった際の答えとして紹介されています。

小田が述べたのは、好きなものを集めれば自動的にすばらしい作品ができる、という成功の法則ではありません。自分がよいと思うものを時間をかけてつくり、それを同じ時代に生きる人へ届けること。さらにライブで観客と顔を合わせ、受け止められ方を確かめることまで、ひと続きの仕事として語っています。

出典候補は2014年『オレンジページ』の対談

ファンによる資料アーカイブ「小田和正の世界」2014年8月14日付記事は、雑誌『オレンジページ』2014年3月2日号に掲載された「明治安田生命社長、小田和正氏と語る。」という対談の内容を紹介しています。そこに、今回の言葉を含む小田の返答が掲載されています。

相手は明治安田生命の当時の社長・根岸秋男。対談は、長く顧客と関わる仕事を通じて安心を届けることをめぐって進みます。根岸が、長期間の付き合いが積み重なることを「面積」にたとえた後、小田はその考えを受け止め、自分にとっては好きなものを作品として積み重ね、同じ感性を持つ人へ届けたいのだと話した、と紹介されています。

ただし、今回は『オレンジページ』の当該号の原本・紙面を直接閲覧していません。記事で紹介している言葉と問答は、2014年の二次的な記録に基づきます。誌面の掲載ページ、句読点、発言の編集上の省略などは未確認なので、原典状態は「要検証」として扱います。

「好きなもの」は、作品の出発点

作品をつくるとき、自分が好きだと思う音や言葉、風景、記憶は大切な出発点になります。流行や周囲の評価だけに合わせて制作すれば、何をつくりたいのか分からなくなる場合もあります。

しかし、「好きなものがある」ことと、「作品として他人に届く」ことは同じではありません。音楽なら旋律、歌詞、編曲、演奏をどう組み合わせるかが必要です。自分がよいと思う部分を選び、かたちにして、聴く人へ渡す工程があります。

小田の言葉が「好きなものを見つけよう」という短い教訓より豊かなのは、自分の感覚を選ぶことと、他者へ届けようとすることが一つにつながっているからです。どちらか一方だけを強調すれば、対談の含意が薄れてしまいます。

「積み重ね」は、長い時間の関係を指す

対談の話題には、長く付き合ってきた人との関係がもつ厚みがありました。根岸の「面積」という言葉は、接点が一度あれば十分だという考えとは異なります。時間とともに築かれる信頼や接触の蓄積を表す比喩です。

小田が作品づくりに引きつけて答えたという前後関係を踏まえると、好きなものを一度発表して終わるのではなく、曲をつくり、ライブで届け、再びつくるという継続の意味が見えてきます。

ただし、楽曲を数多く出しさえすれば、必ず聴き手との関係が深まるというわけではありません。作品を届ける機会があっても、その感じ方は人によって異なります。続けることの価値は、相手との関係を自動的に保証することではなく、関係が育つ可能性を残すことにあります。

観客の顔を見ないと「ずれていく」ことがある

同じ2014年の対談紹介には、小田がライブを大切にする理由も載っています。観客を実際に見ないままでは、自分の感覚と聴き手の反応の間にずれが生まれるかもしれない。楽しそうな表情を見ると、さらに喜んでもらいたいという気持ちになるという趣旨を話しています。

この話から分かるのは、自分の感性を信じることと、受け手の反応を見ることは対立しないという点です。自分が好きだと思う音楽をつくる。そのうえで、実際に聴いた人がどう受け取ったかに耳を傾ける。どちらかを捨てずに創作を続ける余地があります。

2015年の本人インタビューで確認できる、ライブへの姿勢

公益社団法人日本芸能実演家団体協議会の『SANZUI』2015年冬号「ロングインタビュー 小田和正」では、小田本人が、ライブで人々の前に立つまで、観客が喜ぶかどうか不安があること、スタジオでつくった楽曲がライブで聴衆へ届くと新たな手応えを得ることを語っています。

これは2014年『オレンジページ』の引用の原典を証明する資料ではなく、別媒体で本人が直接語った内容です。ただし、作品をつくった後で観客の前に届け、その反応を受けて表現を更新するという考えを、別の取材から確かめることはできます。

『SANZUI』のインタビューでは、過去の曲をただ繰り返すだけでなく、新しい曲をつくって喜んでもらいたいという意欲や、ライブの現場で歌うことへの緊張も語られています。作品の発表が最終目的ではなく、人前で演奏してはじめて見えてくるものがあるという認識がうかがえます。

「同じ感性の人に届けたい」をどう読むか

同じ感性を持つ人たちへ届けたいという表現は、すべての人に同じように評価されたいという目標とは少し違います。自分が好きだと感じる音楽を、そこに心を動かしてくれる人に聴いてもらえたらうれしい、という控えめな願いです。

作品をつくる側は、全員を喜ばせることを保証できません。特定の表現を好まない人がいても、それだけで作品の価値が失われるわけではありません。一方、自分に共感する人だけに向ければ、作品が届く範囲を不必要に狭くしてしまうこともあります。

だからここで大切なのは、最初から共感する人だけを選別することではなく、自分が本当に届けたいと思うものを誠実につくり、それを受け取る人の反応へ開いておくという姿勢として読むことです。

つくる人にとっての「自分」と「受け手」

文章や写真、アプリ、商品づくりでも、自分がよいと思うものと、相手にとって役立つものが一致するとは限りません。自分の感性を消して相手に合わせ続ければ制作を続ける意欲が弱まることもあります。逆に、自分の好みだけを優先すれば、相手に意味が伝わらないかもしれません。

これらを二者択一にせず、作品を出したあとで反応を聞き、次の表現を見直す。その積み重ねが重要なのではないでしょうか。ただし、ここから先は当サイトの現代的な解釈であり、小田がWeb制作や商品開発の方法論を提唱したという意味ではありません。

旧記事からの訂正と出典の状態

旧記事は、この一節を「好きなことを積み重ねれば成功できる」という一般的な自己啓発の教訓に広げ、具体的な掲載媒体や対談相手、前後の会話を示していませんでした。今回は2014年の対談で語られた長い関係の「面積」、曲づくり、ライブでの対面という三つの論点をつなぎ直しました。

出典判定:要検証。2014年の雑誌対談の題名・号数と引用の文脈は同時期の記録から確認できましたが、原誌の紙面は未照合です。2015年『SANZUI』は、別の本人インタビューとして参照します。

参考資料

① 「小田和正の世界」2014年8月14日付・『オレンジページ』対談紹介(掲載号・問答を伝える二次資料)。② 芸団協CPRA『SANZUI』2015年冬号「ロングインタビュー 小田和正」(小田本人のライブに関する別取材)。③ 明治安田・CMギャラリー(小田の楽曲と同社の継続的な関係を示す公式情報。2014年発言の原文ではありません)。

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