はじめに
「車椅子テニスで頑張っていきたいと思う女の子が、もっともっと増えていってほしい」。車いすテニス選手・上地結衣の言葉として広く紹介される一節です。競技で活躍する選手が増えることを願う気持ちが伝わってきます。ただし、挑戦する人が増えるには、本人の勇気だけでなく、参加できる機会が必要です。
元記事には、上地が知る女子の競技志望者が「3人くらい」という長い引用がありました。今回、その人数が語られた時点や元の取材媒体を特定できませんでした。昔の発言かもしれない数を、現在の日本の女子競技人口として扱うことはできません。
そこで、上地本人のインタビューと日本車いすテニス協会の2026年度の公表資料を使い、競技との出会い方や次世代の参加について考えます。障がいのある子どもにもない子どもにも、好きなものを選べる自由があるという本人の考えを中心に読み解きます。
流通する言葉と、確認できない「3人」
「上地結衣の名言20選」には、女子の車いすテニス選手がもっと増えてほしいという長い一文が掲載されています。ただし、録音・動画、発言日の記録、元のインタビューの掲載箇所までは示されていません。本人の発言としての初出と逐字一致は未確認です。
さらに「3人くらい」という数は、仮に本人が話したとしても、そのときに本人が知っていた人数についての説明です。現在も国内に志望者が3人しかいないと読み替えることはできません。話者の経験に基づく人数と、競技団体の公式な統計は区別する必要があります。
誰かの発言を読むときには、何年の話か、何を数えているか、誰が調べた数かを確かめたいものです。出典の時期と集計対象がわからない数字は、今の状況を説明する根拠にしないのが適切でしょう。
2026年度の競技団体資料からわかること
日本車いすテニス協会「強化指定選手」には、2026年度後期(2026年10月1日から2027年3月31日)の男女・クアードの指定選手に加えて、次世代育成強化指定選手が掲載されています。女子の次世代育成に位置づけられた選手が実際に公表されていることを確認できます。
ただし、強化指定選手は競技人口全体ではありません。趣味で車いすテニスを楽しむ人や、これから始めようとしている子どもをすべて含むわけでもありません。指定選手の名簿を女子の参加者数や競技人口の統計に置き換えることはできないのです。
この資料からわかるのは、全国の競技団体が次の世代の選手を育成する枠組みを公表しているという事実です。元の流通引用にある「3人」という数と比べて増えた、減ったと結論づけることはできません。比較できない数字を並べて変化を説明しないことが大切です。
上地結衣はどのようにテニスを始めたのか
日本スポーツ振興センターのアスリート育成インタビューで、上地は姉の軟式テニスをきっかけに、家族と一緒にスポーツを楽しみたいと思って車いすテニスを始めたと振り返っています。最初から世界一になることを目標にしていたわけではありません。
本人によれば、最初は大会出場に不安がありました。そこで先輩が「まず1ゲームを取る」という小さな目標を示し、実際にその目標を達成できたことが次につながったそうです。目標の大きさを本人の状況に合わせることが、参加の入り口になるという具体例です。
誰もが同じように競技へ進むとは限りません。家族と遊ぶために始め、そのまま趣味として楽しむ人もいるでしょう。競技の頂点を目指す人だけが、スポーツに参加する価値を持つわけではないことも忘れずにいたいものです。
「障がいのある子もない子も」という本人の言葉
同じ日本スポーツ振興センターの取材で、上地は若い選手たちに、いろいろな経験をして自分の好きなものに出会ってほしいと話しています。その対象は障がいのある子どもに限りません。まず自分で選び、好きなものを見つけられることを重視しています。
上地は子どもの頃、車いすバスケットボールやピアノなどにも取り組んできたと語っています。それらの経験は、テニスで車いすを操作したり、動きのリズムをつかんだりする面でも意味があったと振り返っています。一つの競技を早く選ぶことだけが成長の方法ではありません。
この発言から「障がいのある子どもはスポーツに参加すべきだ」という命令を導くのは誤りです。参加したい人には道を開き、別のことに興味を持つ人の選択も尊重することが、実際の多様性につながります。
活躍する選手の姿と、参加できる環境
上地のような選手の試合を見て、競技を始めたいと思う人が現れるかもしれません。しかし、やってみたいと思っても、練習する場所、用具、指導者、送迎や移動の条件が合わなければ簡単には始められません。憧れを実際の参加につなげるには、具体的な支援が必要です。
関西テレビの2024年の上地への取材では、本人が子どもの頃から「できるかどうかは試してから考えたい」という姿勢だったことを語っています。この話の大切な部分は、周りが「できない」と決めつけず、やってみる機会を用意することにあります。挑戦の可否を本人に確かめさせる環境が、可能性を広げます。
安全に楽しむための配慮は必要ですが、障がいがあるという理由だけで本人の希望を聞かずに参加を断るのも適切ではありません。どうすればできるかを相談し、可能な方法を探す。支援する人の役割は、本人の代わりに希望を決めることではないのでしょう。
トップ選手にロールモデルを強制しない
活躍する選手は人々に影響を与えることがあります。ただし、本人が必ず社会運動や啓発活動を担わなければならないわけではありません。競技に集中する自由もあります。「誰かの希望であり続けなければならない」という重荷を一人の選手に押しつけないことが重要です。
日本オリンピック委員会の2026年のインタビューには、上地が周囲の人へ相談し、異なる意見を聞いて自分の受け止め方を確かめる姿が描かれています。トップ選手にも、他の人に支えてもらう時間が必要だとわかります。
子どもたちに次の選択肢を届ける役割は、選手本人だけが担うものではありません。指導者、競技団体、地域の施設、家族など多くの関係者で分け合えます。誰か一人の努力だけに依存しない仕組みを整えることが、長く続く支援につながります。
学校や地域で考えられること
運動を始めたい人がいるなら、まず興味のある競技や活動を尋ねます。できることを勝手に限定したり、逆に本人が望まない競技を勧めたりする必要はありません。「何をしてみたい?」という問いから始めることが、尊重のある支援につながります。
体験できる場を知ることも役立ちます。地域のスポーツ団体や施設へ問い合わせ、必要な用具や移動方法、参加条件を確かめることができます。すべての施設が同じ設備を備えているわけではないので、事前に相談しておくと安心です。本人の興味と、実際に参加できる条件を結びつけることが大切です。
また、競技を目指す人も、楽しむだけの人も、どちらも歓迎される場所が増えれば参加の入口は広がります。選手を増やすという目標を、無理に全員を競技者へ育てることと取り違えないようにしたいものです。
まとめ
女子の車いすテニス選手が増えてほしいという長い一節は上地結衣の言葉として流通しますが、初出と「3人くらい」という数字が示された時点は確認できませんでした。その数を現在の競技人口として紹介することは避けています。
一方、2026年度の日本車いすテニス協会の名簿は次世代育成の枠組みを示し、日本スポーツ振興センターの本人インタビューは、上地が自分の興味から競技を始め、先輩の支えを受けて続けてきたことを伝えています。競技に出会う機会と、挑戦を続けられる支援の両方が大切です。
上地の願いを現在の読者へつなげるなら、競技者の人数だけに注目するのではなく、誰かが「やってみたい」と思ったときに、実際に試せる選択肢があるかを考えてみることができるでしょう。
出典と確認範囲
日本スポーツ振興センター「上地結衣選手インタビュー」:競技開始の経緯、先輩による小さな目標設定、子どもへのメッセージを本人の言葉で確認。日本車いすテニス協会「強化指定選手」:2026年度後期の指定選手および次世代育成強化指定選手の掲載を確認。これは競技人口の統計ではありません。
関西テレビ「上地結衣選手への取材」(2024年):子どもの頃の挑戦への思いを確認。日本オリンピック委員会「エールの在りか」(2026年):周囲の人に相談する姿を確認。「上地結衣の名言20選」:問題の長い一節の流通形を確認。元の発言日時と逐字一致は未確認で、出典分類は要検証です。関連記事「楽しいから努力も挑戦もできる」も参照してください。
