「広告の効果が追跡しにくい」「問い合わせ前の接点が見えない」。BtoBマーケティングでこうした悩みが増えると、計測ツールの設定を増やすことばかり考えがちです。しかし、そもそも顧客が比較を始めたときに自社が思い出されるかどうかも重要です。この記事では、純粋想起・第一想起・カテゴリーエントリーポイント(CEP)を正しく区別し、計測しにくい購買過程へどう備えるかを整理します。
最初に確認|ChromeですべてのサードパーティCookieが廃止されたわけではない
トラッキングをめぐる環境は変わっていますが、「ChromeでサードパーティCookieが全面的に使えなくなった」と断定するのは誤りです。Googleは2025年4月、Chromeではユーザーの選択を維持し、新たな一律の廃止措置を取らない方針を説明しました。同年10月にはプライバシーサンドボックス技術の計画も更新しています。
実際の計測可能性は、ブラウザー、ユーザー設定、同意の取得状況、法制度、利用する計測サービス、実装によって異なります。Cookieや識別子の利用可否を一つの時流にまとめず、まず自社の計測条件を点検することが大切です。
ただし「測れる接点だけが購買に貢献している」と考える問題は、Cookieの技術動向と関係なく残ります。広告を見る、イベントで話を聞く、同僚から名前を聞く、しばらくたって比較を始める――これらの長期的な記憶と意思決定を、短いコンバージョン経路だけでは十分に理解できない場合があります。
純粋想起と第一想起は違う
純粋想起(unaided recall / unaided awareness)は、選択肢を提示せずにカテゴリーや課題について尋ねたとき、自社ブランドが思い出されることを指します。一方、第一想起(top-of-mind awareness)は、その中でも最初に挙がることを意味します。両者は関連しますが、同じ指標ではありません。
たとえば「営業データの統合が必要になったとき、どのサービスを思い浮かべますか」と聞く場合、最初に出たブランドが第一想起、そのあとに出たブランドも純粋想起に含まれます。質問の文言、カテゴリー、調査対象、回答順序は結果を大きく左右するため、測定方法を揃えずに年次比較しないことが重要です。
「95:5ルール」を正確に扱う
LinkedInのB2B Instituteが紹介する「95:5ルール」は、多くのBtoB市場では、ある時点で購買を検討していない人が多数いるという考え方です。購買間隔の長さに着目し、顕在顧客だけを狙う広告に偏らず、将来の購買者の記憶をつくる重要性を示しています。
ただし、すべての企業で「顧客の95%が絶対に今すぐ客ではない」と測定されたわけではありません。実際の割合は商材、更新周期、市場、期間の定義で変わります。95:5は全カテゴリーへ当てはめる固定的な実測値ではなく、将来の購買者を無視しないための原則として使うべきものです。
CEP|どんな状況で思い出されたいのか
カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Points、CEP)は、顧客がそのカテゴリーの購買・利用を考えるきっかけとなる状況やニーズです。LinkedIn B2B InstituteとEhrenberg-Bass Instituteによる資料では、ブランドを重要な購買状況と結びつけるための枠組みとして説明しています。
BtoBであれば「システムが老朽化した」「監査対応が必要になった」「海外拠点の統合が決まった」「新製品の立ち上げがある」などがCEPの仮説になり得ます。ただし、これらは例示であり、自社市場で実際に重要かどうかは顧客の調査で検証する必要があります。
大切なのはサービス名を繰り返すだけではなく、顧客の状況から自社を思い出す結びつきを育てることです。どの状況で比較が始まり、何が決め手になるのかを取材することで、コンテンツの切り口や発信先も変わります。
CEPを設計するための実務プロセス
- 1. 購買の起点を集める:顧客インタビュー、失注理由、営業メモ、問い合わせ、導入案件の経緯から、課題が顕在化した場面を洗い出す。
- 2. 状況を整理する:誰が、いつ、どんな問題に直面し、何を比較し始めるのか。単なる職種属性と購買のきっかけを分ける。
- 3. 優先度を決める:その状況が生じる頻度、自社が応えられる価値、競合との違い、証拠の有無を確認する。
- 4. コンテンツを結びつける:説明記事、比較資料、セミナー、事例などを購買状況ごとに設計する。根拠のない架空事例は作らない。
- 5. 観測を続ける:同じ条件でのブランド想起調査、指名検索、商談の起点、問い合わせ理由などを組み合わせる。
たとえば「会社の統合でデータ基盤を見直す」というCEPに対して、機能一覧だけを量産するより、関係者の役割・移行の制約・セキュリティ確認・比較軸を示した方が購買検討を助けるかもしれません。自社でその状況が本当に重要かは、顧客調査で確かめます。
指名検索は大切。ただし「唯一の正解指標」ではない
指名検索の推移は、ブランドへの関心を知る手がかりになります。しかし、検索回数はメディア露出、採用、イベント、商品名の変更、競合との話題、季節性などでも変わります。検索が増えたから認知が一律に改善した、あるいは売上への寄与が確定したとは言えません。
また、顧客がサイトに来ずに営業へ直接連絡したり、販売パートナー経由で相談したりする場合もあります。指名検索だけで上流のブランド効果を測ろうとすると、こうした行動を見落とす可能性があります。
- 想起の測定:対象カテゴリーを一定にした調査で、純粋想起と第一想起を別々に記録する。
- 需要・発見:Search Consoleの検索語、指名検索の推移、資料閲覧、イベント参加などを観測する。
- 営業との接続:問い合わせ時の認知経路、比較候補、商談化、受注・失注理由を記録する。
- 解釈の限界:施策ごとの厳密な因果効果が測れない場合は、相関や傾向として報告する。
短期の需要獲得と長期の記憶形成を対立させない
第一想起を重視することは、リード獲得や受注率を無視することではありません。すでに検討中の顧客へ必要な比較材料を届ける活動と、今は検討していない将来の顧客へ認知・記憶をつくる活動は、時間軸と評価方法が違います。両者を同じ短期CPAだけで比較しないことが重要です。
少人数のマーケティング組織であれば、優先するCEPを絞り、その状況で必ず必要になる一次資料、専門家の説明、比較表を蓄積する方が現実的な場合があります。関連する記事を散在させず、まとまった情報設計を行う方法はBtoBコンテンツ戦略の記事にも整理しています。
まとめ|追跡の限界と、顧客の記憶は別の問題
計測できない接点があるからといって、すべてをブランド広告へ振り向ける必要はありません。しかし、計測しやすい行動だけを最終成果とみなすと、顧客がどの状況で自社を思い出すかという重要な問いが抜け落ちます。純粋想起と第一想起を区別し、CEPと長い購買サイクルを考えながら、複数の指標で改善することが実務的な出発点です。