はじめに――『若草物語』の結末を読む前に知りたいこと
『若草物語』は、マーチ家の四姉妹メグ、ジョー、ベス、エイミーが、貧しくも温かな家庭で成長していく物語です。仲のよい姉妹の暮らしを描いた作品という印象がありますが、原作には病気、死別、結婚、働くこと、創作への迷いまで、人生の大きな選択が織り込まれています。
作者はアメリカのルイーザ・メイ・オルコット。最初の『Little Women』は1868年、後半に当たる第二部は1869年に出版されました。英語圏では二部をまとめて『Little Women』と呼ぶ版があり、日本でもどこまでを『若草物語』とするかが版によって異なります。ベスの死やジョーの結婚まで扱う場合は、二部を通した結末だと明示することが大切です。
今回は、Project Gutenbergに収録された全47章の英語本文をもとに、四姉妹の成長とその後を確認します。原著者は1888年没で、日本での保護期間は満了していますが、現代の日本語訳や映画の脚本は引用せず、内容を独自の言葉で整理します。
マーチ家の四姉妹――それぞれ異なる願いを持つ
物語の舞台は南北戦争期のアメリカです。父は家を離れて戦争に関わる仕事をしており、母と四姉妹は質素な生活を送ります。長女メグは家庭の豊かさを望み、次女ジョーは物語を書くことに熱中します。家族として仲がよくても、一人ひとりの幸福の形は同じではありません。
三女ベスは音楽と家族の穏やかな時間を愛し、四女エイミーは絵と社交に関心を持っています。母は娘たちが失敗しながら自分を理解することを支え、各人の性格の違いが場面ごとの騒動を生みます。四姉妹は「よい子」の四つの模型ではなく、欠点も願いも異なる人物として描かれています。
近所の裕福な青年ローリーは、家族の外から四姉妹の世界へ入る重要な人物です。とくにジョーとは親友になりますが、その親しさが必ず恋愛や結婚につながるわけではありません。友情と恋愛の距離が、後半の結末を理解する鍵になります。
前半の山場――病気、家族の危機、姉妹の成長
父が重い病気になった知らせを受け、母は看病に向かいます。ジョーは旅費の一助にするため、長い髪を売ってお金をつくります。髪は見た目の特徴であると同時に、自分で家族のために何かをしたい気持ちを表す小道具になっています。
母が留守の間、ベスは病気の子どもの世話をした後に猩紅熱にかかり、家族は深く心配します。この段階ではベスは回復しますが、病気の経験は彼女の体に影響を残します。前半で危機を乗り越えたことと、後半も同じように健康でいられることは別です。
メグは次第に生活の派手さより人との関係を考え、エイミーも自尊心や嫉妬と向き合います。ジョーは作家になりたいという願いを抱き続けます。四姉妹の成長は同じ試験を受けるように進むのではなく、それぞれの弱点に向き合うかたちで進むのです。
ジョーはなぜローリーと結婚しないのか
後半でローリーはジョーに結婚を申し込みます。しかしジョーは彼を大切な友人と思いながらも、夫婦になる未来を望めないと告げます。仲がよく、お互いを理解していることが、結婚する理由に必ずしもなるわけではありません。
ローリーは拒まれて傷つきますが、やがて海外でエイミーと交流するなかで新しい関係を築きます。エイミーも画家としての才能や将来を考えていましたが、自分の進路を見直していきます。原作後半ではローリーがエイミーと結婚するため、ジョーとの関係だけを中心に読むと結末を取り違えます。
ジョーにはドイツ出身の教授フリードリヒ・ベアが登場します。彼はジョーの文章に対して率直な意見を伝え、相手の作家としての可能性を真剣に考えます。ジョーに必要なのが、無条件の称賛ではなく、自分の考えを磨ける対話だったという解釈もできます。
ベスの死と、四姉妹それぞれの結末
ベスは再び体調を崩し、自分の命が長くないと悟っていきます。ジョーは最後まで寄り添いますが、後半の第40章でベスは亡くなります。ベスは前半で一度回復したからといって、物語の最後まで生き残るわけではありません。この点は簡略版では印象が異なることがあります。
メグはジョン・ブルックと結婚し、子育てや家庭を通じて新しい苦労を経験します。エイミーはローリーと結婚します。ジョーはベスの死を経験したのち、ベアとの関係を深め、二人で教育の仕事へ進みます。四人が同じ種類の成功を手にするのではなく、人生の選択がそれぞれに分かれていくのです。
第47章「Harvest Time(収穫の時)」では、ジョーが受け継いだ土地「プラムフィールド」で子どもたちを受け入れる学校を営み、家族が集まる様子が描かれます。結末はジョーの結婚式だけではなく、学びの場と家族の新しい形まで続きます。
「夢を諦めた物語」なのか――現代の読み方
ジョーが作家を目指していたのに最後は学校を営むことを、夢を諦めた結末だと感じる読者もいるでしょう。確かに、現代の読者が期待する自由な職業人生とは違う部分があります。しかしジョーが創作や学習から完全に離れたわけではなく、教育に新しい活動の場を見つけたとも読めます。
それでも19世紀の性別役割の期待を、そのまま今の正解として受け入れる必要はありません。メグの家庭、エイミーの芸術、ジョーの書くことへの思いは、互いに比較する材料になります。この作品の魅力は、一つの人生を正解と決めるより、自分の幸福を考える議論を生むことです。
ベスの静かな人生を「目立った功績がない」と評価するのも短絡的です。彼女の優しさは家族に影響を残し、その喪失がほかの姉妹の成長にも関わります。何を得たかだけでなく、誰とどのように生きたかという物差しが作品を貫いています。
まとめ――1868年と1869年の二部を区別して読む
『若草物語』は、1868年の第一部と1869年の第二部を通じて、四姉妹の少女時代からその後を描きます。全体を読めば、ベスは亡くなり、ローリーはエイミーと、ジョーはベアと結ばれます。第一部だけの印象で結末を語らず、どの版の範囲を扱うか確認することが大切です。
困難な時期の家族と子どもの成長という点では、『小公女』原作のあらすじと結末も読み比べられます。『小公女』が一人の少女の境遇の変化を追うのに対し、『若草物語』は異なる価値観を持つ四人の生き方を並べます。どちらも「豊かさ」の意味を問い直す作品です。
原典:Louisa May Alcott, Little Women(Project Gutenberg #514、英語全文47章)。成立情報:Wikisource収録の1868・1869年初期版資料。作者は1888年没。現代日本語訳・映画の表現を転載せず、英語原作に基づく独自の要約です。