はじめに――テイラー・スウィフトは卒業生に何を伝えたのか
「かっこ悪さとともに生きることを学ぼう」。2022年5月18日、ニューヨーク大学(NYU)の卒業式で、テイラー・スウィフトは自分を振り返って恥ずかしくなる気持ちについて語りました。失敗しない生き方を説くのではなく、過去の自分に照れながら進む現実を認める言葉です。
英語の短い一節は「learn to live alongside cringe」。ここでの「cringe」は、過去の言動を思い出して身をすくめるような気恥ずかしさを表します。誰にも笑われない完璧な人になれ、という意味ではありません。むしろ、誰でも後から振り返れば恥ずかしい時期があると認めています。
スウィフトは2022年の卒業生に向け、背負うものを選ぶこと、熱意を隠さないこと、決断の難しさも語りました。言葉を一つだけ切り取らず、演説の複数の助言をつなげて読むことで、その意味を明確にします。
原典は2022年5月18日のNYU卒業式――名誉学位と演説
NYUの公式記録によれば、2022年5月18日にヤンキー・スタジアムで大学全体の卒業式が行われました。スウィフトは名誉美術博士号を授与され、卒業生に向けてスピーチをしました。通常の課程を修了して取得する博士号ではなく、名誉学位であることも区別しておきたいところです。
大学は公式YouTubeチャンネルで彼女の演説映像を公開しています。公開映像と、演説を文字起こしした資料によって、発言が行われた場を特定できます。ファンによって作られた名言画像だけを根拠にする必要はありません。
今回の執筆ではNYUの公式映像の存在と式典記録、公開されている英語の文字起こしを照合しました。映像の音声を最初から最後まで独立に聞き取って校訂したわけではありません。公式映像が存在することと、全文を自分で逐語的に照合したことは別として扱います。
「cringe」とともに生きる――過去の恥ずかしさの扱い方
演説では、流行や服装、かつての自分の好みにも触れながら、何年か後に振り返れば今の姿さえ恥ずかしく感じるかもしれないと話します。時間が経てば価値観も変わるため、過去の自分と今の自分が一致しないのは自然だという見方です。
人は失敗した経験を隠したくなるものです。しかし過去の言動に少し照れたからといって、そのときの挑戦や楽しさがすべて無意味になるわけではありません。恥ずかしさを感じることと、自分の成長を否定することは違うのです。
一方で、誰かを傷つけたことまで「昔の自分だから仕方ない」と済ませるのは誤りです。演説の別の箇所では謝るべきときに謝る選択や、判断を間違えることも語られます。自分への寛容さは、他者への責任を免除するものではありません。
「努力を恥じない」――熱意を隠すことへの疑問
スウィフトは、頑張りたいと願うことを「格好悪い」と見なす空気にも疑問を投げかけます。人前で何かを好きだと言うのが恥ずかしく、無関心を装う方が洗練されているように見えることがあります。熱意を隠す態度が、本当に自分の望む生き方につながるのかを問い直します。
とはいえ、常に全力を出せばよいという根性論ではありません。自分の時間や心の余裕には限界があります。演説の別の助言では、すべてを抱え込まず、手放してよいものを選ぶことも語られています。大切なものへ力を向けることと、全部を頑張ることは同じではないのです。
「恥をかきたくないから挑戦しない」という悩みに対しては、まず小さく始めてみるという現実的な方法があります。上手になる前の自分が人に見えることまで受け入れられると、学びの機会が広がるかもしれません。
人生の正解は教えてくれない――決断と失敗の関係
卒業式という場では、成功への手順を一つ教えてほしくなるかもしれません。しかしスウィフトは、今後の大きな選択について自分が正解を与えられるわけではないとも語ります。選ぶ人自身が、その時点の知識や価値観で判断するという現実が、演説の後半に置かれています。
何かを続けるべきときもあれば、手放すべきときもあります。強く主張するべき場面と、謝るべき場面は同じではありません。一つの名言ですべての局面を解決しようとせず、状況に応じて考え直すことが必要なのです。
卒業式の演説を読み比べたい方には、当サイトのオプラ・ウィンフリーの2013年ハーバード卒業式演説や、エマ・ワトソンの2014年国連演説も参考になります。異なる発信者が失敗と行動をどう語るかを比べられます。
まとめと出典――かっこ悪さを抱えて前へ進む
テイラー・スウィフトの「かっこ悪さとともに生きる」という助言は、2022年のNYU卒業式演説にある表現です。過去の自分を恥ずかしく思っても、いま大切にしている熱意まで捨てる必要はないという見方として読めます。
ただし、後悔した行動の責任を忘れてよいという意味ではありません。必要なら謝り、学び直し、次の選択を変える。不完全な自分を受け入れることと、変わろうとすることは両立するという点が、演説を読む価値でしょう。
参照資料:New York University公式「NYU’s 2022 Commencement Speaker Taylor Swift」(演説映像)、Rev「Taylor Swift Speaks at NYU 2022 Commencement」(第三者文字起こし)、NYU Law「Convocation 2022」(式典と名誉学位の確認)。講演の著作権は存続しているため、短い英語の表現と独自の解説にとどめ、全文や歌詞は転載していません。