はじめに――BTSのRMは国連で何を呼びかけたのか
「自分自身のことを話そう」。2018年9月24日、BTSのリーダーRMことキム・ナムジュンが国連本部で世界の若者に伝えた言葉です。英語の「Speak Yourself」は、単に自信を持とうという掛け声ではなく、自分の声を見つけて社会に届けることを呼びかけています。
有名なアーティストが国連総会の関連行事で登壇したことも話題になりましたが、演説の目的は新曲の宣伝ではありません。ユニセフと若者の学びや仕事への参加を推進する国際的な取り組み「Generation Unlimited」の発足に関係する場でした。イベントの正式な位置づけを知ると、発言が誰に向けられたかが分かります。
本記事では、2018年9月24日付のユニセフ本部による英語の発表原稿と、日本ユニセフ協会が公開した日本語・英語のスピーチ記録を根拠にします。ファンの間で伝わる言葉と、開催団体が残した原文を混同せず、背景と現代的な意味を読み解きます。
2018年9月24日の演説――Generation Unlimitedとの関係
ユニセフ公式資料によれば、RMは2018年9月24日、国連総会の期間中に開かれた「Generation Unlimited」の立ち上げ行事でスピーチしました。これは若者が教育・訓練・雇用の機会を得られるよう取り組む国際的な協力です。「国連で演説した」という表現だけでは抜け落ちやすい、登壇の具体的な目的があります。
その前年の2017年には、BTSとユニセフが「LOVE MYSELF」キャンペーンを始めました。ユニセフの暴力防止の取り組みとも連携し、子どもや若者の保護を目指しています。自分を大切にすることと、他者が安心して育つ環境を作ることが、発言の背後でつながっています。
RMは、ファンがキャンペーンを支えたことにも感謝を述べています。世界的な人気を持つ人物の成功話として閉じるのではなく、音楽を聴く人々が社会的な活動に参加してきたことを認める構成です。ひとりのカリスマだけで変化が生まれたわけではありません。
「昨日の自分も自分」――失敗を消さずに愛する
演説の中でRMは、子どもの頃に空を見て夢を描いていた一方、周囲の評価を気にするようになり、自分の声を聞かなくなったと振り返ります。音楽が自分自身を取り戻す助けになったという流れです。すでに成功した人が、最初から迷いなく自分を信じていたと語る話ではありません。
彼は失敗や欠点を持つ過去の自分も今の自分の一部だという趣旨を述べます。後悔の経験があるからといって、自分という人間の価値がすべて失われるわけではありません。昨日の失敗を見なかったことにするのでなく、そこから学びながら生きることへつなげています。
ただし、この言葉をすべての悩みが自己肯定だけで解決するという保証に変えてはいけません。支援が必要な人や安全が脅かされている人には、周囲の助けや制度も重要です。自分を大切にすることと、助けを求めることは矛盾しません。
「Speak Yourself」――誰の声を聞きたいのか
演説の終盤でRMは、聞き手が何に心を動かされるか、自分の物語は何かを問いかけます。年齢、出身地、肌の色やジェンダーにかかわらず、自分の声を聞かせてほしいという呼びかけです。自分らしさを見つけることを、他者へ言葉を届ける行動へ進めているのが特徴です。
自分の意見を表現することは、目立つ発言をしたり強く主張したりすることだけではありません。小さな経験を話す、困ったことを相談する、好きなことを伝える。何を感じているかを自分の言葉にするための入口は、人によって異なります。
一方で、どんな環境でも本音を公表しなければならないという意味ではありません。公開によって危険にさらされる場合や、話したくない経験については境界を持って構いません。声を持つ権利は、話す内容や相手を自分で選ぶ権利とも一緒に考えたいところです。
現代的な解釈――他人の評価と自分の物語を分ける
学校や職場、SNSでは、いいねの数や周囲の反応が自分の価値を決めるように感じられることがあります。RMが語った他人の目を通して自分を見てしまう経験は、そうした状況にも通じます。数字や評価は参考になる一方、自分の経験のすべてを表してはいないと考えられます。
具体的には、自分が心を動かされた出来事を振り返り、なぜそう感じたのかを書き留める方法があります。最初から立派な理念にまとめる必要はありません。自分の関心を誰かに伝えられる言葉へ育てるだけでも、日常に生かす一歩になります。
一つの物語だけで人を決めつける危険については、アディーチェの2009年TED講演の解説で扱っています。また、ボーズマンの「仕事より目的」の演説と比べると、自分の声を持つことと、それをどんな行動へつなげるかを別々に考えられます。
まとめと出典――自分を愛することから自分の声へ
RMの「Speak Yourself」は、2018年9月24日のGeneration Unlimited発足行事でユニセフが記録した発言です。自分の欠点も含めて受け止めることから、他者へ自分の物語を伝える行動へ進もうとするメッセージでした。
この言葉の価値は、有名人と同じ人生を目指すことではありません。自分の経験をどう理解し、誰に、どんな形で伝えるかを考えることです。自分を表現することと、他人の声を尊重することを両立させる視点として読めるでしょう。
主要資料:UNICEF公式「Remarks by BTS’ Kim Nam Jun (RM)」(2018年9月24日、英語発表原稿)、日本ユニセフ協会「BTSが国連総会でスピーチ」(日本語と英語原文)、UNICEF公式チャンネルの演説映像。英語の発表文には「発言用に準備された原稿」と明記されているため、映像との全語逐語照合が完了したとは主張せず、短い語句と独自の解説を掲載しています。