はじめに――自分の進路が決まっていなくてもいい
卒業後に何をするか、すぐに答えられない人もいます。周囲が将来の計画を語るほど、進む道を決められない自分だけが取り残されたように感じるかもしれません。俳優・コメディアンのウィル・フェレルは2017年の南カリフォルニア大学卒業式で、進路がまだ決まらなくても大丈夫だと卒業生を励ましました。
大学の公式記事に記録された短い言葉は「Trust your gut」です。ここでは「自分の直感を信じてみよう」と説明します。ただし、何も調べずに思いつきで突き進めという意味ではありません。試しながら自分に合う方向を見つける姿勢が、この言葉の前後に置かれています。
この演説は2017年5月12日、南カリフォルニア大学の第134回卒業式で行われました。大学の公開映像と公式ニュース記事に同じ発言が残っています。噂として流通する名言ではなく、大学側の一次記録から発言の位置を確かめられるのが特徴です。
批評家に嫌われても、仕事を続けた経験
フェレルは大学卒業後、即座に売れっ子になったわけではありません。俳優やコメディアンとしての経験を積み、後にコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』へ出演するようになりました。しかし初出演後には、非常に厳しい評が寄せられたと演説で振り返っています。人前に作品を出す以上、誰にも批判されないことは期待できません。
彼はその否定的な評価を、事務所の壁に貼っておいたそうです。誰からも好かれるわけではないと忘れないためでした。批評に一切耳を貸さないのではなく、他人の評価を自分の存在価値と同一視しないという意味が読み取れます。
一方で、批判には役立つ指摘も混じります。事実の誤りや相手を傷つける表現があれば、修正する必要があります。「批評を無視する」という極端な考えではなく、改善に使える意見と単なる好みを区別することが現実的です。
「結果の重圧」に飲み込まれない
卒業式の最後でフェレルは、進路がまだ分からない人に対しても、探す過程を楽しむよう呼びかけました。どんな職業に就くかは重要ですが、最初の選択だけで人生全体が決まるわけではありません。進路探しを、合否が一度で決まる最終試験のように考えないことがポイントです。
演説には、ダーツの的へ繰り返し投げるという比喩も登場します。ここでの投げる行為は、何の準備もせず応募や挑戦を大量に繰り返すことではありません。経験を重ねる中で、何が自分に向いているかを確かめる試行錯誤だと考えられます。
たとえば文章を書く仕事が気になるなら、一つ記事を仕上げて反応を確かめる。人と関わる仕事が気になるなら、短い活動や実習を経験してみる。小さな実験で選択肢を確かめれば、失敗の影響を抑えながら判断材料を増やせます。
笑い話の中に隠れた、思いやりへの視線
フェレルの演説には有名な映画や俳優の名前が登場し、場を盛り上げるための誇張も含まれます。たとえば『クィーン』のエリザベス女王役をヘレン・ミレンに奪われたという話は、本人による冗談です。ユーモアの部分を実際の配役の裏話としてそのまま記事化しない注意が必要です。
一方、大学公式記事が紹介する真面目な一節では、他人に与えることを学ばなければ本当の成功とはいえないという趣旨を語っています。仕事で成功することと、人にとって信頼できる存在になることを両方大切にするという考え方です。
本人の笑いには、ときに自分の失敗や不格好さを材料にする面があります。他人を一方的に笑いものにすることと、自分の弱さを認めて笑うことは違います。人を励ますユーモアを持つことも、長く仕事を続けるための技術の一つになるかもしれません。
日常で直感を活用するときの注意
直感とは、今までの経験や感じた違和感が、言葉にしきれない形で現れることがあります。ただし、偏見や思い込みを直感と呼んでしまう場合もあるでしょう。自分の感覚を出発点にしながら、客観的な条件を調べて確かめることが重要です。
新しい選択を前にしたら、「なぜこれが気になるのか」を一度書き出します。費用や時間、必要な技術を確認し、失敗したとき戻れる範囲を考えます。感覚だけで結論を出すのではなく、感覚が示した方向を実際の行動で検証するという手順です。
挑戦と自己評価についてはミンディ・カリングの「Why not me?」が参考になります。また、ジェリー・サインフェルドのユーモアについての演説と比較すると、コメディアンが仕事を続けるために何を大切にしているかを考えられます。二人を同じ「笑いの天才」とひとまとめにせず、それぞれの具体的な経験を読みたいところです。
まとめ――進路は、考えながら試してよい
ウィル・フェレルの2017年卒業式演説が示したのは、人生を最初から完全に設計する必要はないということです。他人からの評価に過度に支配されず、試行錯誤を重ねながら方向を見つけるという姿勢が中心にあります。
もちろん、直感を信じることだけでは準備や責任の代わりになりません。経験を積み、失敗を受け止め、必要なら方向を変える。その繰り返しが判断の精度を高めます。まだ将来の答えが出ていなくても、次の一歩を試すことはできるのです。
原典は南カリフォルニア大学の2017年5月12日付公式発言記録と同大学の公式演説映像です。演説中の冗談を事実と混同せず、必要な短い原文以外は独自の日本語解説で構成しています。