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芥川龍之介『蜘蛛の糸』のあらすじと結末|カンダタはなぜ地獄へ落ちたのか

はじめに――『蜘蛛の糸』はどんな物語か

芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は、地獄にいる男へ一本の糸が垂らされる短い物語です。あらすじはよく知られていても、糸が切れた直接のきっかけや、最後の蓮池の描写まで覚えている人は意外に少ないかもしれません。

この作品は1918(大正7)年7月の児童雑誌『赤い鳥』創刊号に「創作童話」として掲載されました。作者の明らかな近代文学作品であり、昔から作者不詳で伝わった民話と同一視しないことが大切です。仏教的な舞台設定も、芥川が構成した物語の表現として読みます。

ここでは青空文庫に収録された『芥川龍之介全集2』を底本とする本文を読み、昭和館にある『赤い鳥』創刊号の目次記録で初出を照合しました。初出の誌面全文と後年の底本の字句が完全一致することまでは確認していません。

あらすじ――一本の蜘蛛の糸が地獄に届くまで

極楽の蓮池を歩いていたお釈迦様は、地獄の血の池にいるカンダタを見つけます。カンダタは人を殺したり火をつけたりした悪人でしたが、かつて一匹の蜘蛛を踏み殺すのを思いとどまったことがありました。その小さな善行が、救いのきっかけになります。

お釈迦様は極楽の蜘蛛がかけた銀色の糸を取り、地獄の底へ垂らします。カンダタは糸を見つけ、一心に登り始めました。重く暗い地獄から遠ざかるにつれて、もうすぐ抜け出せるかもしれないという希望が膨らみます。

ところが途中で下を見ると、大勢の罪人たちが同じ糸を登ってきています。カンダタは細い糸が切れることを恐れます。恐怖自体は理解できますが、そこで彼はほかの人々とともに助かる可能性を考えるより、自分だけのものとして糸を独占しようとするのです。

結末――糸が切れたのはどの瞬間か

カンダタは後から登ってきた罪人たちへ、これは自分の糸だから降りろと叫びます。物語では、その言葉を発した途端に彼がぶら下がっているところで糸が切れるのです。大量の罪人の重さで徐々に切れる、といった描写ではありません。

カンダタは真っ逆さまに落ち、血の池の底へ戻ります。極楽から一部始終を見ていたお釈迦様は、彼の無慈悲な心を悲しく思うように描かれます。ここで語り手が直接説明しているのは、自分だけ助かろうとしたことへの批判です。

ただし糸が物理的にどれだけの重さに耐えられたのか、別の行動をとれば必ず助かったのかは原文で実験のように説明されません。「他人を排除しなければ糸は絶対に切れなかった」まで断定するのは、本文以上の推測です。

教訓――小さな親切と、自分だけの救い

この物語には二つの方向の力が働いています。一つは、小さな蜘蛛を助けた善行によってカンダタに救済の機会が訪れること。もう一つは、いざ自分が危険に直面したとき、その慈悲をほかの人へ広げられなかったことです。

読者は「親切にしておけば後で得をする」とまとめたくなるかもしれません。しかしそれだけなら、カンダタの優しさは将来の見返りを買う取引になってしまいます。肝心なのは、自分が助けられる立場になったときにも、他者の命を軽く扱わないかという問いでしょう。

また、彼の独占欲には恐怖が影を落としています。余裕があるときは善人でも、資源が足りないように見えると途端に他人を押しのけてしまう。危機の場面で人は何を「自分のもの」と考えるのか。これは個人的な道徳だけでなく、集団生活の問題としても読めます。

最後の蓮池――なぜ極楽は変わらないのか

物語はカンダタの転落で終わりません。最後にお釈迦様が蓮池を再び歩き、蓮の花は人間の出来事とは無関係に香りを放つ場面へ戻ります。救いの失敗と、静かな極楽の風景が対照をなしています。

この締めくくりを「世界は無関心だ」と読むこともできますし、人間の欲望から離れた別の時間が流れていると読むこともできます。ただし、どれか一つを作者の唯一の教訓と決める根拠はありません。物語を閉じた後に残る居心地の悪さも、作品の力です。

同じく信頼と他者への向き合い方を扱う作品として、太宰治『走れメロス』を読み比べると、他人を信じる行為と自分の生存本能の緊張が見えてきます。『ライオンとネズミ』も小さな命が相手を救う物語ですが、『蜘蛛の糸』は恩返しが必ず成功する話ではないところが大きく違います。

まとめ――一本の糸が映す人の心

『蜘蛛の糸』は、1918年の『赤い鳥』創刊号に掲載された芥川龍之介の創作童話です。原文では、カンダタがほかの罪人を追い払おうと叫んだ瞬間、糸が切れます。

善いことを一度したという過去だけで、未来の行動まで保証されるわけではありません。誰かに手を差し伸べられたとき、その手を自分だけの所有物と考えるか。救いが自分のものになった瞬間こそ、他者への態度が試されるのです。

生きるうえで競争や恐怖は消えません。それでも、怖さを理由に他人を突き落としていないかという問いは残ります。物語の糸は細く見えますが、人の心を照らすには十分な長さを持っているのでしょう。

原典・版・権利について

本文の確認先:青空文庫・芥川龍之介『蜘蛛の糸』本文(底本は筑摩書房『芥川龍之介全集2』1986年版)。創作童話としての初出は、昭和館『赤い鳥』第1巻第1号・1918年7月の目次でも確認できます。

本文の比較対象は上記の後年の底本であり、1918年初出誌面と字句が一致するかの精密な異版校合は未実施です。作品本文・現代の解説文の長文転載はせず、あらすじと解釈を独自の文章でまとめました。

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