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アダム・グラント「独創的な人ほど多く失敗する」|2016年TED講演の原文と意味

はじめに――失敗が多い人は、能力が低いのか

新しい企画を考えるとき、間違った案を出すのは恥ずかしい。そんな気持ちは珍しくありません。ところが組織心理学者のアダム・グラントは、2016年のTED講演で、独創的な人と失敗の関係について逆説的な言葉を述べています。独創的な人は、失敗を避けているのではなく、多くを試しているという視点です。

講演名は「The surprising habits of original thinkers」。TED公式サイトには、登壇者名、2016年2月の講演情報、英語の全文書き起こしが公開されています。本文で扱う短い一節は「the greatest originals are the ones who fail the most」。日本語見出しはこの発言の意味を表す説明訳で、公式日本語字幕の逐語的な再現ではありません。

この言葉を「失敗する回数さえ増やせば成功する」と読むのは早計です。講演には、多くのアイデアを生むことに加え、考えを疑い、改善し、ときには作業を寝かせる過程も登場します。失敗の多さを自慢するのではなく、試行の幅をどう広げるかに注目して読んでいきます。

2016年TED講演「独創的な人の意外な習慣」

TED公式の説明によると、アダム・グラントは新しい発想を持ち、それを形にしようとする「originals(独創的な人々)」を研究してきました。ここでの独創性は、ひらめきを思いつくだけでなく、実際に行動して世の中へ提案することも含んでいます。頭のなかのアイデアだけで完結しない点が講演の前提です。

冒頭では、本人が投資を断った眼鏡の通販企業「Warby Parker」の話をします。創業者たちは立ち上がりまで時間をかけ、別の仕事を確保していました。グラントは当初、それを独創的な起業家らしくないと判断したと振り返ります。専門家である自分自身の判断違いから話を始めるのが、この講演の面白いところです。

その後、創造的な人が先延ばしを活用する場合、アイデアへの疑問を持つことが役立つ場合、失敗の数が多い背景などを紹介します。ただし、講演で挙げられた研究や例を、あらゆる職場や人に無条件で当てはまる普遍的法則として扱うべきではありません。発言と研究上の条件を区別する姿勢が必要です。

「the greatest originals are the ones who fail the most」の位置

TED公式の書き起こしでは、講演の13分過ぎにこの一節が登場します。直前には、音楽家や発明家などの分野で、多くの作品やアイデアが生み出されることに言及しています。短い表現を日本語にすると、「もっとも独創的な人たちは、もっとも多く失敗する人たちだ」となります。

しかし、その次の説明が重要です。なぜ失敗が多いのかといえば、それだけ多く挑戦しているからだと本人は述べます。数多く作り、そのなかから一部の優れたものが出てくるという筋道です。失敗そのものに魔法の力があるのではなく、試行回数と成果の可能性の関係を考えています。

グラントは、クラシック音楽の作曲家や発明家の事例なども用います。事例から直接すべての因果を証明できるわけではありませんが、先に思いついた一案に固執するより、選択肢を増やすことの価値を示しています。一度で傑作を出せなくても、発想が尽きたとは限らないという見方を与えてくれます。

失敗を重ねるだけでは足りない理由

例えば毎日同じ方法で企画を出し、同じ理由で採用されないなら、回数を増やしても学べることは少ないかもしれません。大切なのは、不採用になった理由を聞き、次の案では条件や視点を変えることです。試行錯誤の「錯誤」は、次の試行へつながってこそ意味を持つと考えられます。

また、試すべきことにはリスクの大小があります。ゲームのルールや企画書の見出しなら小さく試せても、顧客の個人情報や人の健康に関わる判断を同じ感覚で繰り返すべきではありません。安全に試せる範囲を定めることが、創造性の土台です。

グラントの講演では、最初の案を疑うことも取り上げられます。自分自身を否定する疑いと、アイデアの質を問い直す疑いは別物です。前者は行動を止めることがありますが、後者は改善を促します。「自分には才能がない」ではなく「この案はどこを変えられるか」と問うことが役立ちます。

先延ばしと独創性――講演が言っていること

講演には、ほどよく作業を遅らせることが、発想の幅を広げる場合があるという話も登場します。グラントは、仕事を始める前から何も考えずに放置するのではなく、課題を意識した後に少し距離を取ることに意味があると説明しました。「先延ばしはすべて良い」という主張ではありません。

仕事の期限が迫っているときに、無計画に作業を止めるのは危険です。一方、初稿を書いてから時間を置き、翌朝読み返すと改善点が見える場合もあります。これは誰にでも同じ効果があるという保証ではなく、講演の発想を日常へ応用した一例です。早く着手し、仕上げる前に考える余白を残す方法が考えられます。

失敗の話と先延ばしの話には共通点があります。すぐに一つの正解へ飛びつかず、別の可能性を検討するということです。速度だけを評価する仕組みでは見落とされやすい、検討の時間を思い出させてくれます。

仕事と学びにどう生かすか

新しい提案をつくるなら、最初から唯一の完成案を目指すのではなく、方向の違う複数案を出してみる方法があります。例えば「安さ」「使いやすさ」「独自性」など、評価軸を一つずつ変えると、案の違いが見えるようになります。数を増やす目的は、思考の選択肢を増やすことです。

案を選ぶ段階では、実行できるか、何が分かっていないか、誰に影響するかを確認します。アイデアの数を競うだけでは、実際の成果にはつながりません。広げる段階と絞る段階を分けることが、講演の教訓を現実の仕事に取り入れる一つの方法です。

さらに、失敗した案をただ捨てるのではなく、なぜうまくいかなかったかを短く記録しておくと、次の判断に使えることがあります。結果への反省が本人への人格評価にならないようにすることも大切です。挑戦した人を責めるより、試した方法を改善する環境が、新しい提案を支えます。

関連する記事と原典

発想や創造性について別の角度から読むなら、エリザベス・ギルバートの2009年TED講演を扱う記事も参考になります。才能との付き合い方を語った言葉と、試行回数についてのグラントの話を読み比べれば、創造性を一つの性格特性に還元しない見方ができます。

実際の事業づくりに応用するなら、新規事業アイデア検証の記事も関連します。そこで問題になるのは、アイデアを思いつくことだけではなく、仮説を作り、試作して確かめることです。発想を増やす工程と、現実で検証する工程は分けて考える必要があります。

原典は、TED公式「The surprising habits of original thinkers」英語書き起こしです。講演には研究への注記や関連文献も示されています。ネット上の二次的な名言集ではなく、本人の講演本文を基準に発言を確かめられる点が大きな利点です。

まとめ――失敗の数ではなく、試し方を変える

アダム・グラントは2016年のTED講演で、独創的な人ほど多く失敗するという趣旨の言葉を語りました。英語原文は、TEDが公開している講演の13分過ぎの書き起こしで確認できます。出典・話者・発言位置を直接示せる言葉です。

この言葉は、すべての失敗を肯定したり、危険な挑戦を繰り返すよう勧めたりするものではありません。試す幅を広げ、失敗の理由を考え、良い案へ磨いていくことを促す視点です。一度の失敗から自分の可能性を決めつけないこともできます。

講演にはユーモアと個人的な反省が多く含まれており、研究者の話としてだけでなく、学ぶ人の失敗談としても読めます。失敗しない自分を演出するより、試しながら良くしていく。そんな姿勢が言葉の中心にあるように思えます。

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