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宮沢賢治『猫の事務所』のあらすじと結末|かま猫へのいじめと獅子が解散を命じた理由

はじめに――まじめに働く猫が、仲間外れにされる話

宮沢賢治の童話『猫の事務所』には、四匹の猫の書記と、一匹の黒猫の事務長が登場します。仕事に熱心な「かま猫」は、周りの猫たちに疎まれ、やがて大切な仕事まで取り上げられてしまいます。動物の姿を借りながら、集団の中で起こる不公平や排除を描いた作品です。

終盤になると、突然現れた獅子が事務所の解散を命じます。意地悪な猫たちを叱って終わる話のようにも見えますが、そこで失われるのは、かま猫自身が大切にしていた仕事の場所でもあります。解散がすべてを解決したという簡単な物語ではありません。

原作の副題は「ある小さな官衙に関する幻想」。官衙は役所を意味する言葉です。1926年に雑誌に発表された作品の本文と掲載記録に立ち戻り、出来事の順序、人物ならぬ猫たちの関係、最後の一行の意味を考えます。

初出は1926年『月曜』3月号だった

大阪府立中央図書館・国際児童文学館の『月刊雑誌月曜』紹介によると、『猫の事務所』は1926年3月1日発行の同誌第1巻第3号に掲載されています。宮沢賢治の生前に雑誌へ発表された作品であり、後世の編集者が新しく作った物語ではありません。

今回確認した本文は青空文庫が公開する『猫の事務所』です。同ページは1986年刊『宮沢賢治全集8』を底本とし、1999年に電子公開されたことを明示しています。1926年の初出雑誌と、1986年版を底本とする電子本文は同一の媒体ではない点に注意が必要です。

童話と呼ばれる作品ですが、単に幼い子どもに向けて道徳を教える話と決めつける必要はありません。組織の運営や人間関係を風刺する物語としても読めるからです。本文に実際にある出来事と、現代の読者が見いだす解釈を分けて説明します。

猫の第六事務所では何をしていたのか

物語の舞台は軽便鉄道の停車場近くにある「猫の第六事務所」です。猫たちの歴史や地理を調べる機関で、訪ねてきた猫に土地や人物の情報を提供します。大きな帳面を調べる仕事は、周囲から尊敬されていたため、書記になりたい猫はたくさんいました。

事務所の責任者は黒猫の事務長。部下の四匹には白猫、虎猫、三毛猫、竃猫(かま猫)がいます。書記の数は四人と決まっており、能力を認められた者が選ばれます。かま猫も多くの希望者の中から仕事を得ていたため、決して仕事をする資格がない猫として描かれているわけではありません。

客がベーリング地方の情報を尋ねると、書記たちは役割を分けて資料を調べます。かま猫も人物についての大きな原簿を用意し、必要な情報を伝えます。能力があることは作中の仕事ぶりから確かめられるのに、それだけでは周囲の扱いは変わりません。

竃猫(かま猫)が嫌われた理由

かま猫という呼び名は、生まれつきの猫の種類ではありません。寒さを避けて竈の中で眠るため、体や顔に煤がついて黒くなる猫のことです。見た目がほかの猫と違うことが、周囲から嫌われるきっかけになっています。

かま猫には、体の皮膚が薄く寒さに弱いという事情があります。外で眠ろうとしても寒くて続けられず、仕方なく竈の中へ戻ります。汚れを落とすために努力すれば解決するという単純な設定ではない点が重要です。本人にも変えられない事情があります。

事務長の黒猫は、初めはかま猫の能力を認めて採用しています。しかし、ほかの三匹は仕事の腕前を見ても態度を改めず、笑ったり嫌がらせをしたりします。能力の評価と、集団の中で受け入れられることが一致しないという苦しさが浮かびます。

親切に弁当箱を拾ったのに、なぜ怒られたのか

虎猫が弁当箱を落とし、拾おうとして手を伸ばしているのを見たかま猫は、代わりに拾って渡そうとします。ところが虎猫は怒り出し、自分に床へ落ちた弁当を食べろというのか、と非難します。かま猫の手助けが、悪意のある行動として受け取られてしまう場面です。

かま猫は、拾おうとしているように見えたから拾っただけだと説明します。虎猫はそれを認めず、強く言い返します。相手を嫌っていると、同じ行為でも不利な意味に解釈されることを読者は感じ取るでしょう。ここから一方の猫が最初から悪いことを企てたと断定するより、会話の食い違いと関係の悪さに注目できます。

事務長は喧嘩を止めますが、虎猫には昇給の話も伝えます。かま猫が謝ったわけでもなければ、虎猫が手助けへの感謝を示したわけでもありません。その場の騒ぎを収めることと、不公平な関係を改善することは別だと分かる場面です。

三毛猫との出来事と、繰り返される誤解

別の日には、三毛猫が落とした筆を拾おうとして机から落ちます。かま猫は前の弁当箱の出来事を思い出し、助けようか迷いますが、最後には立ち上がります。前に嫌な思いをしていても、困っている相手を放っておけない姿が描かれます。

ところが三毛猫は、かま猫に押されたのだと非難します。今回は事務長が、かま猫は触れていなかったと説明し、誤解を正します。それでも三毛猫の態度は変わりません。一度その場で無実が認められても、関係の問題がなくなるとは限らないのです。

かま猫は、自分も普通の猫のように過ごそうと外で眠ることさえ試します。しかし、寒さに耐えられず竈へ戻ります。不当に扱われる側が、自分の存在の仕方を変えなければならないと感じる苦しさが、童話の静かな場面に表れています。

風邪で休んだ日に何が起きたのか

かま猫は風邪をひき、足の付け根が腫れて、どうしても歩けなくなります。やむを得ず一日仕事を休むと、ほかの書記たちは事務長に、かま猫が遊びに行ったとか、宴会に招かれたらしいなどと話し始めます。本人がいない場所で、確かめられていない話が広がるのです。

三毛猫は、かま猫が次の事務長になるつもりで周囲に持ち上げられているという趣旨の話まで持ち出します。事務長は真偽を確かめずに怒り、かま猫への見方を変えてしまいます。権限を持つ者がうわさを確かめずに信じると、状況が大きく悪化することを示しています。

翌朝、かま猫がようやく出勤すると、いつも大切にしていた原簿が自分の机からなくなり、他の書記たちに分けられていました。単に無視されるだけでなく、仕事をするための道具まで取り上げられたのです。

原簿を失ったかま猫と、沈黙する仲間たち

かま猫が挨拶しても、ほかの書記たちは応じません。事務長さえ目を向けず、事務所の仕事は何事もないように始まります。仕事場全体がかま猫をいない者のように扱うという、前の二つの揉め事よりも深刻な状況になります。

客からの質問に答えるための記録は、かま猫以外の書記が使っています。かま猫は自分の仕事だと分かっていても、何も言えず、下を向いているだけです。仕事をする能力が失われたのではなく、能力を発揮する場所と道具を奪われたのです。

昼になっても食事をとらず、かま猫は泣き始めます。周囲の猫たちはその様子を見ても仕事を続けます。苦しんでいる人が見えているのに、誰も状況を変えようとしないという点に、この場面の厳しさがあります。

獅子が解散を命じた理由

そのとき、窓の外から獅子が事務所を見ています。獅子は入ってくると、猫たちのしていることを厳しく批判し、事務所の解散を命じます。表向きは知識を扱う立派な場所でも、そこにいる者を不当に扱うなら、その役割は何なのかという問いが突きつけられます。

ただし原作は、獅子の権限の出所や、解散後にすべての猫がどうなったかを詳しく説明していません。獅子がどの機関の監督官か、かま猫が別の仕事に就いたかを創作しないことが大切です。確認できるのは、獅子が解散を命じ、事務所がなくなったという結末です。

事務所の解散は、意地悪な猫たちにとってだけでなく、そこを誇りに思っていたかま猫にも大きな変化です。苦しい場所が消えたことを救いと読む一方、大切な仕事の場まで失われたと考える余地が残っています。

最後の一文「半分獅子に同感です」の意味

物語の最後に語り手は、獅子の判断に「半分」同感すると述べます。ここがとても重要です。全面的に賛成したのではなく、あえて半分という留保をつけたため、読者は解散が最善だったのか考えさせられます。

かま猫への扱いを見ていれば、獅子が怒るのは理解できます。しかし、その場をなくす以外にも、公平な仕事の分担や事実確認などの方法があったかもしれません。こうした別の可能性は読者の解釈であり、原作が実際に描いた改革案ではありません。

語り手が半分だけ同感した理由を、唯一の正解として決めることもできません。いじめを放置した事務所への批判と、そこで仕事を続けたかったかま猫への思いの両方を抱えて読み終えられる結末です。

『オツベルと象』『虔十公園林』との読み比べ

同じ宮沢賢治の『オツベルと象』では、働かされる白象が周囲の力によって苦しい状況に置かれます。力を持つ者と弱い立場の者の関係を読むという点で、『猫の事務所』との比較ができます。ただし作品の結末や登場人物の願いは異なります。

『虔十公園林』は、周囲に理解されにくかった人物の行動が後に別の価値を持つ物語です。他人からどう評価されるかと、その人の行動の価値は一致しないという問いを、違う角度から考えられます。

さらに『よだかの星』では、名前や見た目を理由にした扱いが重要になります。似た主題を感じても、どの物語も一つの結論にまとめず、原作に描かれた選択と結末を確かめることが大切です。

まとめ――解散は本当に救いだったのか

宮沢賢治『猫の事務所』は、1926年に雑誌『月曜』へ発表された寓話です。仕事に能力のあるかま猫が、見た目や周囲の反感のため不当に扱われ、やがて原簿を取り上げられます。個人の能力では説明できない集団内の排除が、物語を動かしています。

獅子はその状況を見て、事務所の解散を命じました。しかし、最後の語り手は「半分」同感すると述べます。いじめを止める必要と、仕事の場を失うことの両方を考えさせる終わり方です。

子ども向けの動物の話として読むだけでなく、うわさを確かめること、人の能力を公平に扱うこと、組織の問題をどう解決するかを考える入り口にもできます。結末の余白を残したまま読むことに、この作品の深さがあります。

原典・初出の版・著作権について

本文の出来事と結末は青空文庫の宮沢賢治『猫の事務所』で確認しました。同ページの底本は1986年刊の『宮沢賢治全集8』であり、1926年の雑誌初掲載紙面を直接翻刻したことを示すものではありません。

初出資料は大阪府立中央図書館・国際児童文学館の『月曜』所蔵・解説で確認しました。1926年3月1日発行の第1巻第3号に「寓話 猫の事務所」が掲載されたことが示されています。出版年と底本の年を区別しています。

宮沢賢治は1933年に亡くなっており、原作品の日本での著作権保護期間は満了しています。ただし、現代の挿絵、翻案、朗読音声や独自の編集物には別の権利があり得るため、本記事では原作を独自の文章で要約し、それらの素材を転載していません。

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