『ねずみのすもう』のあらすじと結末|痩せたねずみと長者のねずみ、秋田の昔話の違い

はじめに――痩せたねずみは、なぜ勝てるようになった?

小さなねずみが相撲を取る。しかも、貧しい家の痩せたねずみが、裕福な家の大きなねずみに何度も負けてしまう。『ねずみのすもう』は、そんな少し不思議な光景から始まる日本の昔話です。勝てなかったねずみが、老夫婦の思いやりを受けて変わっていくところに、話の温かさがあります。

題名は絵本などでよく知られていますが、これも一人の作家が決めた唯一の筋書きというわけではありません。秋田に残る採話記録を見ても、おじいさんが出かけた理由や、最後に届く贈り物の描かれ方などに違いがあります。よく似た話が、各地の語りの中で少しずつ姿を変えて伝わっているのです。

この記事では、秋田県立の博物館が公開する口承文芸の記録を手がかりに、あらすじと結末を整理します。採話記録の目録・要約から分かることと、採録した物語の全文を逐語確認したことは分けて記すことで、昔話の魅力と出典の正確さを両立させます。

あらすじ前半――山で見つけたねずみの相撲

秋田の口承文芸検索システムにある『鼠の相撲』は、秋田県仙北市に関わる角館の話として整理されています。貧しいおじいさんとおばあさんが暮らしているところから始まり、おじいさんが山へ出かけると、ねずみたちの相撲を目にします。人間の知らないところで、ねずみ同士が力比べをしていたというのが最初の驚きです。

片方は貧しい老夫婦の家のねずみ、もう片方は裕福な長者の家のねずみです。老夫婦の家のねずみは弱く、何度挑んでも相手に負けてしまいます。家の暮らしぶりの違いが、小さな動物たちの体格や力の違いとして映し出されるのが印象的です。

これを見ていたおじいさんは、ただ勝負を笑って眺めるだけではありません。自分の家のねずみが負けていることを気にかけ、何かしてやろうと考えます。勝負が変わるきっかけは、ねずみ自身の意地だけでなく、そばで見守る人の行動から生まれるのです。

食べ物で元気になる――老夫婦がしたこと

角館の記録では、おじいさんが家のねずみのために、おいしい物をたくさん用意します。ねずみは喜んで食べ、次の日の相撲で長者のねずみに勝つようになります。強い相手に勝つための秘密の道具ではなく、食べ物を分けてもらうという身近な支えが、話を動かします。

こうした展開から、昔の暮らしでは十分に食べられること自体が大切だったと想像できます。ただし、物語の内容だけで特定の時代の栄養状態や科学的な因果関係が証明できるわけではありません。ねずみの強さが変わるのは、昔話らしい物語上の仕掛けとして読むのが適切でしょう。

裕福な家に住むねずみと、貧しい家に住むねずみの差を、人間の身分や能力の優劣に結びつける必要もありません。ここで重要なのは、困っているねずみをおじいさんが放っておかなかったことです。相手の事情に気づき、できる範囲の助けを差し出すという行動が、結末への道を開きます。

結末――長者のねずみが届けた贈り物

翌日、前日に負け続けていたねずみが勝つと、長者の家のねずみは不思議に思います。話を聞いて、相手が老夫婦から食べ物をもらったと知るのです。そこで自分も老夫婦の家へ行き、もてなしを受ける筋書きが伝わります。勝負の相手を敵として終わらせず、同じ食卓へ招くところが、この昔話の面白さです。

角館の『鼠の相撲』の要約では、長者のねずみがお礼にお金をたくさん残し、貧しかったおじいさんとおばあさんは裕福になります。老夫婦が最初から金銭を目当てにしたのではなく、ねずみへの親切が思いがけない返礼につながったという順序が重要です。

とはいえ、「人に食べ物を与えれば必ず大金がもらえる」という現実の法則を説いているわけではありません。小さな親切が予想外の形で戻ってくるという、昔話特有の楽しさがあります。結末を金銭的な成功だけで読むより、老夫婦とねずみたちの関係が変わったことにも注目したいところです。

秋田の異版を比べる――角館と鳥海では何が違う?

秋田の口承文芸検索システムには、もう一つ『ねずみの相撲』の記録があります。これは現在の由利本荘市鳥海町に関わる話で、話者は佐藤タミと記載されています。1976~77年の聞き取りをもとにした、2009年刊『鳥海山麗のむかし話 佐藤タミの語り』の収録話です。同じ話型でも、語られた場所や聞き取った時期が違う資料です。

鳥海の話でも、おじいさんが山でねずみの相撲を見つけ、家の痩せたねずみが負け、食べ物をもらってから勝つという流れは共通しています。ただし、角館の要約が金銭を残す結末を説明するのに対し、鳥海の要約では寝具の中に大判小判などが入っていたという描写になっています。細部の違いを消さずに読むと、口で語り継がれる物語の幅が見えてくるのです。

角館の資料は1975年刊『角館昔話集』所収の一話として掲載されています。しかし、1975年の本が昔話そのものの初出であると考えてはいけません。出版年・採話年・物語の発生時期は別のものです。いずれも目録とあらすじを確認したもので、各原本の全文を一字ずつ比較したわけではありません。

『おおきなかぶ』『ねずみの嫁入り』とどう違う?

ねずみが登場するお話といえば、『おおきなかぶ』や『ねずみの嫁入り』を思い出す人もいるでしょう。しかし、ねずみがいるというだけで同じ物語だとは言えません。『おおきなかぶ』では最後に加わった小さな参加者の協力が決め手となり、『ねずみのすもう』では老夫婦のもてなしが転機となります。小さな動物の役割が、それぞれ違うのです。

『ねずみの嫁入り』では、強いと思った存在を次々と訪ねた末に、結婚相手を決める筋がよく知られています。一方、『ねずみのすもう』は家ごとの暮らしの差と、勝負、食べ物、感謝が結びついています。同じ動物を題材にしても、問いかけるテーマが異なるところが民話の面白さです。

子どもと一緒に読むなら、「どうしておじいさんはねずみを助けたのかな」「勝ったねずみだけでなく、負けたねずみはどう思ったかな」と問いかける方法もあります。決まった正解を教える必要はありません。誰が誰を助けたのか、どんな気持ちだったのかを考えることで、物語の楽しみが広がります。

まとめ――小さな勝負に、大きな思いやりがある

『ねずみのすもう』は、貧しい老夫婦の家のねずみが、長者の家のねずみとの相撲に負け続けるところから始まります。老夫婦が食べ物を与えると勝負が変わり、やがてお礼の贈り物が届くのです。勝負に勝つことだけでなく、困った相手を助けることが物語の中心にあります。

秋田に残る角館と鳥海の採話記録は、話の大筋がよく似ていますが、細部の描写には違いもあります。昔話の一つの絵本や再話だけを、古来の唯一の原作だと考えない方がよいでしょう。人が語り、聞き、また語る中で物語が受け継がれてきたことが、このお話の大切な背景です。

参照したのは秋田の口承文芸検索システム所載の角館『鼠の相撲』と鳥海『ねずみの相撲』、国立国会図書館の絵本書誌です。公開された採話目録・要約の範囲では筋と異版を確認できますが、収録原本の全文は未照合のため、出典タグは要検証とします。

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