はじめに――「新しい景色」を見られなかった、その先の言葉
2022年のFIFAワールドカップ・カタール大会で、日本代表はドイツとスペインに勝ち、決勝トーナメントへ進みました。一方、目指していたベスト8には届きませんでした。そんな大会を振り返って森保一監督が語ったのが、選手たちが新しい時代を見せてくれたという評価です。
結果だけならベスト16。そこで「失敗だった」「大成功だった」の二択に分けると、そこで何が変わったのかを見落としかねません。森保監督は到達できなかった目標を認めながら、選手の戦い方と意識に変化を見ていました。未達成の結果と、確かに生じた進歩を別々に見るという読み方が大切です。
この記事では日本サッカー協会(JFA)が2022年12月30日に公開した本人へのインタビューを原典に、発言の前後関係を確認します。有名なスローガンを切り取るのでなく、何を達成し何を達成できなかったかを踏まえて考えましょう。
原典は2022年12月30日公開のJFA本人インタビュー
原典は日本サッカー協会の「選手たちが新しい時代を見せてくれた」です。2022年12月30日付で、ワールドカップを終えた森保一監督への質問と回答が掲載されています。発言者・掲載日・問いの内容を公式の質疑応答から直接確かめられる資料です。
森保監督は、目標だったベスト16の壁を破れず、新しい景色を見ることはできなかったと認めたうえで、選手たちが新しい時代を見せたという趣旨を答えています。「新しい景色を見た」と無条件に成功を宣言した発言ではありません。届かなかったものを最初に明示しています。
別の問いには、世界の強豪国と渡り合う中で、見上げるだけでなく追いつき、その次には追い越そうと考える姿勢へ変化したと説明しました。順位だけでは測れない、相手に向かう意識の変化を監督は重視していたと読めます。
ドイツとスペインに勝ち、クロアチア戦で止まった現実
カタール大会の日本代表はグループリーグでドイツとスペインに勝利し、決勝トーナメント一回戦でクロアチアと対戦しました。強豪への勝利は確かに印象的でしたが、ベスト8への進出を達成したわけではありません。大会結果とその評価を混ぜないことが重要です。
森保監督はJFAの同じインタビューで、ドイツとスペインに勝てたこと、クロアチアとも世界の上位国と戦える姿を見せられたことを話しました。その一方、世界にはまだ学ぶべきところがあるとも述べています。手応えと課題が同時に存在しているという認識です。
スポーツの結果は順位で決まります。それでも次の大会に向けて何を改善できるかは、順位だけでは決められません。得た経験を具体的に分解することが必要です。称賛すべき勝利と、なお残った競技上の課題をどちらも消さない姿勢が読み取れます。
「追いつく」から「追い越す」へ――目標の見方が変わる
森保監督が話した大きな変化は、世界の強豪をただ見上げる存在として扱わなくなったということでした。勝ち切る場面があると、自分たちの可能性の捉え方は変わります。相手を恐れて模倣するだけでなく、自分たちが上回るために何をするかを考える段階へ進むのです。
しかし、気持ちを変えるだけで相手を追い越せるわけではありません。同じインタビューで森保監督は、ボールを奪った直後の対応、ボール保持、守備で主導権を握ることなど、具体的な課題を挙げています。意識の変化を練習や戦術の改善に結びつける必要を本人も説明していました。
仕事や学習でも、最初は優れた人を遠くから眺めるだけになりがちです。実際に挑戦すると、できたことと足りないことが具体的に見えてきます。目標が遠いという感覚を、次に試す行動へ変えることが、この言葉から考えられる応用でしょう。
短い準備期間で代表チームをつくる難しさ
クラブチームとは違い、代表チームの選手は日頃から同じ場所で練習しているわけではありません。森保監督はインタビューで、所属クラブや到着時刻が異なり、試合前に全員で練習できる機会が一度しかない場合もあると話しました。才能のある選手を集めただけでは、共通の戦い方は完成しないのです。
森保監督は映像を使ってチームの目指すサッカーを共有し、コーチングスタッフとも役割を分担したと説明しています。監督を自分一人で何でも決める人と描くより、限られた時間で情報をそろえ、複数の専門家の協力を得て判断する人と見る方が発言に沿っています。
これは少人数のプロジェクトにも通じます。全員が同じ情報を持っていないとき、まず目的を短い言葉と具体的な資料で共有する。必要な役割を分け、誤解を減らしてから動く。協力とは気合いを合わせるだけでなく、意思疎通の仕組みをつくることでもあります。
指導者にも学び直しがある――欧州の現場を見たい理由
大会を終えた森保監督は、可能なら欧州のクラブの現場を訪ねたいとも話していました。監督が選手にどう働きかけているか、自分の目で確かめたいという思いからです。自分が指導する側でも、学びたい対象がなくなるわけではないことが分かります。
海外のクラブで戦う選手がどんな環境で暮らし、何を感じているかを知りたいとも語っています。戦術の情報を集めるだけでなく、選手の生活や立場を理解しようとする姿勢です。相手の事情に近づくことが、よりよい対話や判断につながるかもしれないという視点があります。
もちろん、この記事から2022年末以降にどの現場を実際に訪問したかまでは断定できません。インタビュー時点では希望や計画として述べているからです。「これからしたい」と語ったことを、すでに実行した事実へ書き換えないことも、出典を正しく扱ううえで欠かせません。
まとめ――結果を認めて、成長の意味を見落とさない
森保一監督の「新しい時代」という言葉は、2022年のワールドカップでベスト8に進めなかった事実を隠すものではありません。むしろ目標の未達を認めたうえで、選手の戦い方や意識の変化を評価したものでした。成果を誇張せず、得られた進歩まで無かったことにしない姿勢が表れています。
強い相手に挑み、自分たちにも戦える部分があると知ること。通用しなかった部分を調べ、次の練習へつなげること。成功したか失敗したかの二択より、何が変わり何を変えるべきかを考える方が前に進めます。目標は結果の判定だけでなく、次の行動を選ぶためにも存在するのです。
出典は日本サッカー協会の2022年12月30日付本人インタビューと、同協会の監督続投発表です。本人への質問と回答を協会の公式記録で確認したため出典確認済みとします。ただし、この発言を未来の大会での結果の保証や、本人が後年語った見解に置き換えることはしません。