はじめに――鳥の言葉が分かる頭巾は誰からもらったのか
不思議なずきんを頭にかぶると、鳥たちの声が人の言葉として聞こえてくる。昔話『ききみみずきん』には、そんな心をくすぐる仕掛けがあります。今まではただの鳴き声だったものが、何かを知らせる言葉に変わる。この物語の面白さは、主人公が強い武器を手に入れるのではなく、ほかの生き物の声を理解できるようになる点にあります。
ところが「その頭巾をくれたのは誰か」と尋ねると、読んだ本によって答えが違う場合があります。きつねから受け取る絵本もあれば、氏神さまから授かる紙芝居もあります。どちらかが必ず誤りというのではなく、同じ昔話が別の再話として伝わっていると考える必要があります。
本記事では、出版社や公的図書館が公開している作品紹介・書誌をもとに、それぞれで確認できる筋と違いを整理します。絵本や紙芝居の全文を読んだかのように、紹介されていない場面を補って語ることはしません。
『ききみみずきん』の基本的なあらすじ――耳が聞き取る秘密
物語の核にあるのは、特別な頭巾と、鳥の言葉を理解するという力です。ポプラ社の『ききみみずきん』作品紹介には、きつねにもらった古ずきんをかぶると、鳥のさえずりが人の言葉として聞こえると説明されています。人間には分からなかった情報が、ずきんによって伝わるようになるのです。
別の童心社の紙芝居『ききみみずきん』では、正平という人物が氏神さまからもらった頭巾によって、鳥の話を理解できるようになったと紹介されています。長者の娘が大病を患っている事情を鳥から聞く、というところまで公式紹介で確かめられます。同じ不思議な能力が、困っている相手の問題を知るきっかけになります。
ここから先は、ひとつの決まった「原作」だと考えないことが重要です。昔話には語り手や再話者による異なる語りがあり、登場人物の名前や道具の由来などが違うことがあります。あらすじは確認した版の範囲で述べ、違う版の描写を混ぜてひとつの物語に作り替えないようにします。
氏神さまの版の結末――長者の娘の病気と屋根の蛇
童心社の1969年初版の紙芝居は、堀尾青史が脚本、田中武紫が絵を担当する作品として案内されています。出版社の説明では、正平が鳥から長者の娘の病気の原因を聞き取るところが示されています。作品を紹介する側が公開している情報なので、この再話の登場人物や設定を確認する根拠になります。
また、子どもの文化研究所の紙芝居資料室による作品あらすじには、正平がカラスの話を聞き、長者の屋根から蛇を助け出して、娘の病気を治したという筋が載っています。こちらの記録で確認できる結末は、頭巾で得た情報を使って困りごとを解決するというものです。
ただし、これは公開された紙芝居の紹介文と資料室の要約に基づく説明です。12場面の脚本全体を一場面ずつ確認したわけではありません。誰がどんな台詞を言うのか、病気の原因が各画面でどう詳述されるかなど、要約だけでは分からない細部を断言しないことが、異版比較では大切です。
きつねの版と2004年版――頭巾を授かる場面が違う
ポプラ社版は、岩崎京子が文、若菜珪が絵を担当し、出版社の書誌には1967年7月発売と記載されています。作品紹介はきつねにもらった古ずきんの不思議さを強調しています。同じ題名でも、動物から道具を授かるという入り口が、氏神さま版とは違います。
一方、国立国会図書館の書誌にある2004年刊『ききみみずきん』第2版には、関根榮一が文、藤川秀之が絵を担当したことが記されています。出版社由来の要約によると、神社で眠ったおじいさんの夢に神さまが現れ、鳥や獣だけでなく木や草の言葉も分かる頭巾を授けます。誰が受け取るか、どこで授かるか、何の声が聞こえるかまで、設定が変わり得ることが分かります。
ただし2004年というのは、その絵本の出版年であって、昔話そのものの成立年代ではありません。1967年や1969年も同様に、それぞれの出版物の年です。複数の再話の刊行年を並べても、物語の真の起源や最初の語り手は自動的には特定できません。
教訓をどう読むか――聞こえなかった声に耳を向ける
耳を澄ませることで新しい情報が得られる、という展開は、今の生活にもつながる読み方ができます。たとえば、いつも通る道の木や鳥に注目するだけでも、何となく背景に流していたものに関心が向きます。ここから「普段は聞き逃していたものに注意を向ける」という教訓を考えるのは、読者側の解釈です。
ただし、この教訓がすべての伝承で最初から同じ形で語られていた、と決めつけることはできません。正平の紙芝居では病気の理由を知り問題を解く筋が確認できますが、どの再話も必ず同じ問題や結末を持つとは限らないのです。物語の具体的な出来事と、読み手が後から見いだした意味を分けて楽しみたいところです。
動物が人間の暮らしに関わる物語を読み比べるなら、当サイトの『鶴の恩返し』の異版比較もおすすめです。あちらは人と動物の関係、約束、恩返しという別の問いを持ちます。同じ「動物の出る昔話」という括りの中でも、中心になる行動と教訓は異なると気づけます。
まとめ――一つの「正解」に閉じない『ききみみずきん』
『ききみみずきん』には、きつねから頭巾を受け取る版と、氏神さまから授かる版が紹介されています。紙芝居資料のあらすじでは、正平が鳥の言葉から娘の病気に関わる事情を知り、屋根の蛇を助けることで解決へ進みます。共通する「聞く力」に注目しつつ、登場人物と出来事の違いをそのまま残して読むことが、この昔話の楽しみ方です。
確認した資料はポプラ社の作品紹介、童心社の紙芝居紹介、子どもの文化研究所の資料室、国立国会図書館の書誌です。確認できたのは出版社等の作品説明・書誌・要約の範囲であり、各版の本文全文や最古の採録原典は照合していません。
したがって、紹介文にない出来事を一つの確定した結末として付け加えず、出典状態は「要検証」とします。不思議な頭巾は、誰かに代わって答えを出す道具ではなく、見過ごしていた声を聞く物語上の仕掛けとして読めます。同じ話でも違う声がある、と知ること自体が昔話の奥行きを広げます。