ショーン・エイカー「幸福が仕事を変える」|2011年TED講演と21日間の習慣

はじめに|成功したら幸せになる、は本当だろうか

仕事で目標を達成したら幸せになれる。そう考えて努力しても、目標を達成した瞬間に次の目標が現れることがある。ショーン・エイカーは2011年のTEDxBloomington講演で、成功が先で幸福が後という順序を問い直す考え方を語った。

講演の題名は「The happy secret to better work」。エイカーはポジティブ心理学を広める活動で知られ、TED公式サイトも、幸福感が生産性へ及ぼす影響を論じた講演として紹介している。根拠のない楽観を勧めるのではなく、感情の状態と働き方の関係を考えるというテーマだ。

ここでは本人のTEDx講演と、本人サイトに掲載された講演の実践に関する資料をもとに読み解く。本人が紹介した研究上の主張と、誰にでも再現することが確認できた効果は区別する。

講演の背景|目標を達成すると次の目標が現れる

エイカーは、学校でも仕事でも「成果を上げれば幸せになれる」と教えられやすいことを指摘する。成績が上がれば、よりよい成績を求められ、就職すれば次の昇進を目指す。幸福をいつも将来の成功の先に置くと、到達点が動き続けるという問題だ。

この説明は、努力や目標を持つことを否定するものではない。むしろ達成目標が必要な場面でも、今の生活をずっと幸福の仮置き状態にしなくてよいのではないかと問いかける。目標へ向かうことと、目標達成まで自分を評価しないことは別だ。

講演はユーモアを交えた語り口で進むが、主張の核心は、先に感情の状態を整えることが課題への取り組み方を変え得るという点にある。幸福を報酬としてだけ考えず、日々の行動に関わる条件として見る発想が示されている。

幸福と生産性|因果関係を急いで断定しない

エイカーは、ポジティブな状態にあるときの脳の働きが、否定的な状態やストレスの強い状態とは異なるという研究を紹介する。そして幸福感を高める工夫が、仕事の成果にもつながり得ると主張する。感情の状態が思考や行動に関係するという方向性だ。

ただし講演の中で挙げられる生産性や能力の割合を、どんな職種にも当てはまる固定値として扱うのは適切ではない。仕事の種類、評価する指標、研究の条件で結果は変わり得る。講演者の説明と、現在の学術的な合意を同一視しないことが重要である。

また、仕事の不調を本人の幸福感だけで説明できるわけではない。過重労働や不適切な管理など、環境の問題がある場合も多い。個人の気分の工夫で、組織が負うべき責任まで置き換えないという読み方が必要だ。

三つの感謝を記録するという練習

講演の終盤で提案される方法の一つが、感謝できることを毎日三つ書き出すことだ。エイカーは、同じ三つを繰り返すのではなく、その日新たに見つけることを勧める。意識を失敗や不足だけでなく、身近な肯定的な出来事へも向けるための練習として説明される。

例えば、忙しい日でも助けてくれた同僚、思いがけず落ち着けた時間、家族との短い会話などを振り返る。ただし出来事を無理に美化したり、苦しさを否定したりする必要はない。問題があることと、よかったことが一つもないことは同じではない。

本人は21日間という期間を例に挙げているが、21日で必ず習慣が定着するという普遍的な法則としては扱えない。一定期間試して、続けやすさや自分の状態を振り返るくらいの使い方が現実的だ。

日記・運動・瞑想・親切という四つの方法

感謝の記録以外にも、直近のよかった経験を日記に書くこと、身体を動かすこと、瞑想すること、他人に親切な行動をすることが紹介される。講演は、気分を変える特別な買い物ではなく、日々の行動を通じて注意の向け方を整えるという提案で構成されている。

例えば誰かへ感謝を伝える短いメールは、思いついたときに始められる行動だ。運動や瞑想についても、生活や体調に合わない方法を無理に続ける必要はない。自分が無理なく行える具体的な行動へ落とし込むほうが試しやすい。

これらは医療上の治療法の代わりになるという話ではなく、また五つを全部実施しなければ意味がないというものでもない。講演者の実践提案と、医療的な効果の証明は別だと理解しておく。

仕事と生活で実践するときの注意

仕事で応用するなら、失敗の指摘だけでなく、前日にうまくいったことや他人の助けを具体的に振り返る時間を設けられる。問題を隠して明るく振る舞うことではなく、評価する情報の偏りを減らすことが目的になる。

一方、強いストレスを抱えている人へ「幸せになれば生産性が上がる」と要求するのは、この講演の安易な使い方だ。本人の状態だけでなく、業務量や安全な相談先を確保する必要がある。幸福を個人の義務や人事評価の項目へ変えてしまわないことが大切だ。

関連して、ダン・ギルバートの幸福についてのTED講演では、自分の幸福をどう予測するかを考えられる。またロバート・ウォールディンガーの人間関係と幸福の講演は別の研究に基づく話だ。「幸福」という共通語だけで、異なる研究や主張をひとまとめにしないで読める。

まとめ|幸福を先送りする習慣を見直す

ショーン・エイカーの2011年TEDx講演は、仕事の成功のあとに初めて幸福が訪れるという考え方を問い直し、日々の感情と行動の関係に注目するものだった。目標を持ちながら、今の生活の中にも価値を見つけるという発想が中心にある。

感謝の記録、日記、運動、瞑想、親切な行動は、本人が提案する身近な練習である。21日で誰でも必ず幸福になり、生産性が上がると保証するものではない。自分の生活に無理なく取り入れ、様子を確かめたい。

主な出典:TED公式「The happy secret to better work」2011年TEDxBloomington講演、講演者本人の公式サイト・講演の五つの実践に関する紹介。講演で述べられた主張と、当サイトの一般的な応用・注意点を区別して記述した。

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