セス・ゴーディン「私たちが導くトライブ」|2009年TED講演とコミュニティの力

はじめに|人はなぜ同じ考えの仲間と動くのか

大きな組織や広告予算がなければ、人々を動かすことはできないのだろうか。マーケティングの著述家セス・ゴーディンは、2009年2月のTED講演で、価値観を共有する仲間が自発的につながる「トライブ」という考え方を語った。誰かに商品を売る方法だけでなく、変化を起こす人々のつながりを考える講演である。

英語題名は「The tribes we lead」。TED公式は、インターネットによって従来の大量広告とは違う方法で人が結びつき、小さな集団でも社会の変化を導けるようになった、という講演の趣旨を紹介している。ここでいうトライブは血縁や民族の区分ではなく、共通の関心と思想を持つコミュニティの比喩だ。

本記事ではTED2009の公式記録とTED-Edの講演教材をもとに、マス・マーケティングとの違い、リーダーの役割、コミュニティづくりの注意点を整理する。2009年のインターネットをめぐる観察を、現在のあらゆるサービスの確定的な法則としては扱わない。

TED2009の背景|大量に届けることから関係をつくることへ

かつての商品宣伝は、テレビや雑誌などで多くの人に繰り返し情報を届ける方法が中心だった。ゴーディンは、この仕組みがすべての分野で今後も同じように働くのかを問いかける。知名度を一度に広げるだけでは、人が自ら行動したいと思う理由まで生まれないからだ。

インターネット上では、地理的に離れた人でも同じテーマについて集まり、互いに情報を伝えられる。関心を持つ人同士がつながり、その中から新しい行動が生まれる可能性がある。集団を一方的に説得することと、共通の目的で結びつくことは異なる。

ただし、テレビ広告が完全になくなったわけでも、大規模な発信が無意味になったわけでもない。講演で強調されるのは、従来の方法に代わる新しい可能性である。伝えたい情報の種類によって、広く届けることも深くつながることも重要になりうる。

トライブとは何か|属性よりも共通の関心でつながる

ゴーディンが語るトライブは、同じ考えや目的を大切にする人々がつながった集団を指す。年齢や居住地が一致していなくても、ある問題を変えたい、同じ活動を続けたいという関心でまとまれる。共通の物語や価値観が集団への参加を支えるという見方だ。

大事なのは、ただ多くのフォロワーを集めることではない。情報を一方的に受け取るだけの人の数が増えても、互いに交流せず、何も行動しない場合がある。トライブの力は数字だけではなく、参加する人々の関係と行動にある。

また、一つのコミュニティに属することは、その中の全員と意見が一致することを意味しない。共通の目的があっても、方法について議論は起こる。仲間意識を高めることと、異論を排除することを同じにしない姿勢が、実際に活動を続けるうえで欠かせない。

リーダーに必要なのは命令よりも方向を示すこと

講演は、変化を生み出す人を特別な肩書きのある人物に限定しない。すでに存在する関心を見つけて、人と人を結び、次の行動を提案する人もリーダーになれる。人々が共有する思いを見つけ、集まるきっかけをつくるという働きだ。

組織の上から細かい指示を出すことと、自発的に参加する人々を導くことは似ているようで違う。後者では、自分の意見を一方的に押しつけても関係が長続きしない。何のために集まるのかを明らかにし、参加者同士のつながりを育てることが中心になる。

身近な例としては、地域の課題を解決する活動や、特定の知識を学ぶ勉強会がある。主催者は参加の目的と場をつくれるが、内容の価値は参加者によっても育つ。リーダーの存在感を高めることより、集団そのものが動けるようにする発想である。

現状を変えるという姿勢|何を問い直すのか

ゴーディンは講演の中で、既存の決まりに従うだけでなく、その決まりが本当に必要かを問う人々へ目を向ける。現状を変えたいと思う人が、共通の課題を持つ仲間と出会ったとき、新しい動きが生まれることがある。変化は必ずしも最初から大きな組織によって始まるわけではない。

しかし反対すること自体が目的になれば、何を改善したいのかが見失われる。集団の熱意が強まるほど、外部の人を敵とみなしてしまう危険もある。変化させたい問題を具体化し、反対意見にも耳を傾けることが必要だ。

ゴーディンの議論は、トライブが必ず社会を良い方向へ導くという証明ではない。集団の結束は建設的な活動にも、誤情報の拡散にも使われうる。人を動かせることと、動かす方向が正しいことは別の問いである。

個人メディアや仕事で活用するなら

小さなメディアなら、まず読者がどんな問題を考えたいのかを明確にしたい。記事を大量に発信するだけでなく、同じテーマのページをつなぎ、関心の近い読者が次の情報へ進めるようにする。PVの増加だけでなく、読者が何を得て、どんな行動へつながるかを考えられる。

企業の仕事では、単に新商品の情報を届けるより、顧客や社員が共有する目的について議論する機会をつくる方法がある。ただし、利害の異なる相手へ同じ理念を押しつければ反発が起こる。顧客の具体的な課題を理解したうえで、参加する意味を伝えることが前提になる。

関連する記事として、サイモン・シネックの2009年TEDx講演は目的を言語化する大切さを問い、ドリュー・ダドリーの講演は日常的な行動からリーダーシップを考える。共通点はあっても、それぞれ別の人物が別の場で語った主張として読み比べたい。

まとめ|つながる理由があって初めて集団は動く

セス・ゴーディンの2009年TED講演「The tribes we lead」は、価値観を共有する人々が結びつき、リーダーとともに変化を生み出す可能性を語るものだった。人を集める技術以上に、何のために集まるのかという問いが重要である。

小さな集団でも、目的を共有し、互いに関わり、行動できれば価値が生まれる。ただし仲間意識をつくることと、外部の人を排除することは別だ。参加する理由を明確にし、関係を育て、結果を検証することで、講演の考え方を建設的に使える。

主な出典:TED公式「The tribes we lead」2009年2月講演、TED-Ed公式の同講演教材。講演の主旨は本人の発言に基づき、現代の個人メディアや職場への応用は当サイトの独自の考察として記述した。

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