はじめに|「愛は食卓にある。」は料理の腕前の話?
「愛は食卓にある。」。キユーピーの広告で知られる短い言葉だ。毎日の食事を通して誰かとつながる風景を想像させるが、料理の上手下手を競う表現ではない。食卓という身近な場所に、人と人が互いを気にかける時間を重ねたコピーとして読むことができる。
「愛」という抽象的な言葉は、使い方を誤ると押しつけがましくなる。しかし「食卓にある」と置き場所を決めると、急に生活に近くなる。食べ物を渡す、同じ時間に食事をする、会話をする。大きな理念を、日々繰り返す行動の中へ降ろす効果がある。
では、この言葉はいつどのような企業の考えから生まれたのか。キユーピーは2007年にその目的を公式に発表している。聞こえのよい言葉を後から自由に解釈する前に、採用した会社が何を説明したか確認しておきたい。
出典|2007年4月24日付のキユーピー公式発表
キユーピーの2007年4月24日付ニュースリリースNo.32は、従来の企業姿勢を分かりやすく伝えるため、「愛は食卓にある。」という言葉を添え、同年4月から広告などで使うと明記している。採用した企業、文言、発表日、広告使用時期が一次資料で直接分かる。
従来の表現として示されるのは、赤ちゃんから高齢者まで各世代においしさと健康を届ける考えを表す「Food, for ages 0-100」だ。新しい言葉はそれを否定して置き換えるというより、理解しやすく補うものとして記されている。既存の企業姿勢を、生活の風景へ翻訳した言葉と捉えられる。
公式発表では、食事は栄養を摂取するためだけのものではないと説明している。家族の温かさ、感謝の心、人と人とのつながりを重視する考えだ。食べ物を売る会社が、食べ物を囲む時間全体へ関心を広げている点に意味がある。
「愛」が意味するもの|食事の向こう側にいる相手
この一節での「愛」を、特定の恋愛感情に限定する必要はない。家族、友人、近所の人など、さまざまな関係で互いを気遣う行動を考えられる。食事という行為が、誰かの存在を確かめる時間になることがあるのだ。
ただし、一緒に食卓を囲めば必ず心が通い合うわけではない。家族であっても話せないことはあるし、一人で食べることが心地よい人もいる。家庭の形や食事の仕方を一種類の理想に固定しないことが、現代の読者に必要な読み方だろう。
食卓の温かさという言葉を、毎日料理を作る人への負担にしてもいけない。手の込んだ献立か、便利な商品を使った食事かだけでは気遣いを測れない。愛情は手間の量や料理の値段と一対一には対応しない。このコピーを義務ではなく可能性として受け止めたい。
企業の言葉としての特徴|商品ではなく場を語る
キユーピーはマヨネーズやドレッシングなどの食品を扱う会社だ。しかし「愛は食卓にある。」は、ある商品の性能や価格を説明するコピーではない。商品が使われる場所と、そこで生まれる人の経験を先に描いている。企業が売るものと、人が暮らしで求めるものをつなぐ方法だ。
同社の企業情報では、現在もこの言葉をコーポレートメッセージとして掲げている。2007年の一時的なキャンペーンだけではなく、長く企業の考えを伝える役割を担ってきたことが分かる。短い文章が残り続けるには、具体的な商品を超える余地が必要なのかもしれない。
ただし、コーポレートメッセージに賛同することと、商品の原材料や安全性を確認することは別だ。買い物では自分の体質、食習慣、価格などに合わせた判断が必要になる。企業の姿勢を語る広告と、個々の商品を評価する情報を分けるようにしたい。
現代的な読み方|食卓を少し広く考える
忙しい日々の中では、食事を短時間で済ませることもある。そんなとき、全員で同じ献立を食べることだけがつながりではない。食事の時間がずれても、一言の声かけや後片付けの協力ができる。食卓を固定した形ではなく、相手を気にかける行為として考える余地がある。
料理の完成度にこだわりすぎると、食事そのものが負担になることもある。簡単なものを用意して話す時間を増やすほうが、心地よい場合もあるだろう。何を食べるかだけでなく、その場がどんな時間になるかを考えるのが一つの実践である。
同じように生活の価値を語る企業の言葉として、かんぽ生命「人生は、夢だらけ。」がある。かんぽ生命は日々の願い、キユーピーは食卓という具体的な場所を入口にする。抽象的な価値を、どんな日常の場面に結び付けるかで言葉の表情は変わる。
まとめ|日々の食事へ価値を見いだすコピー
「愛は食卓にある。」はキユーピーが2007年4月に広告などで使用を始めると公式に発表した言葉だ。企業への帰属と導入時期を同社の発表で確認できるため、出典タグ114とした。
このコピーが伝えるのは、食事を栄養の摂取だけで終わらせず、人とのつながりを考えるという視点である。ただし、食卓のあり方を誰にでも一律に求める必要はない。暮らしの中で人を気遣う方法は、さまざまな形を取り得る。
確認資料はキユーピー2007年4月24日ニュースリリースNo.32とキユーピー公式「消費者志向自主宣言」。企業自身の導入説明と現在の掲出記録を分けて確かめている。