はじめに|「この木なんの木」は、どこの木?
「この木なんの木」。日立の企業CMに登場するこの一節を聞くと、大きく枝を広げた木の姿が思い浮かぶ人は多いだろう。木の名前を尋ねるだけの言葉なのに、長い時間をかけて一つの企業の象徴になっている。身近な自然への疑問を入口に、企業全体の姿を印象づける表現として読むことができる。
歌の印象が強いため、最初のCMからハワイにある木が映っていたと考えがちだ。しかし、日立の公式沿革を読むと、初代はアニメーションの木だった。記憶に残っている現在のイメージと、広告が生まれたときの姿を区別する必要がある。
この一節を扱ううえで重要なのは、特定の木を覚えることだけではない。日立が何のために大樹を選び、どういう企業像を伝えようとしたかだ。商品の宣伝を越えて、異なる事業を一つのイメージにまとめる方法を公式資料から考えてみたい。
出典|1973年に始まった「日立の樹」CM
日立製作所の公式沿革には、1973年に「日立の樹」のテレビCMが開始されたと明記されている。「この木なんの木」というフレーズが、CMの象徴的な言葉として紹介されている。企業自身の記録に、表現の帰属と放送開始年が確認できる。
当初は大きく伸びる木で日立グループの広がりを表現しようとしたものの、イメージに合う実物の木が見つからず、初代はアニメーションになったという。テレビでおなじみの実写の木が、最初の企画で当然のように決まっていたわけではないところが面白い。
1975年の第2代CMからは、米国ハワイ州オアフ島のモアナルア・ガーデンパークにあるモンキーポッドが採用された。これは実写の最初の木に当たる。1973年のCM開始と1975年の実写の木の採用を分けることで、歴史を正確にたどれる。
なぜ大きな木だったのか|企業グループの比喩
日立の公式説明では、大地に根を張り、枝を広げ、花を咲かせて実を結ぶ木を、技術とシステムの広がりに重ねている。一つの幹から多くの枝が伸びる姿が、多様な事業を展開する企業グループの比喩になるわけだ。
家電一つを紹介する広告なら、製品の形や性能を示せばよい。しかし企業の活動が幅広い場合、特定の商品だけでは全体を表せない。多くの人がすぐ理解できる大樹のイメージを使って、複雑な事業構造を伝えようとしたと考えられる。
ただし、木の美しさだけで企業の技術力や経営上の成果を証明できるわけではない。広告は目指す姿を表現するものだ。企業イメージとしての木と、実際の事業を評価する数値や実績を分けることが必要になる。
「何の木?」と問いかける意味|関心の入り口
「この木なんの木」と聞かれると、答えを知りたくなる。最初から木の種類を説明するより、疑問を置いたほうが目を向けてもらいやすい場面がある。一言の質問で、自然の映像を眺める人の関心を引き寄せるという工夫だ。
その疑問は、木の名称だけを知れば終わるわけではない。広告の中では、日立の企業イメージと結びついているため、聞き手は自然と会社の姿を覚える。疑問、映像、企業名を同じ体験にまとめている点が特徴といえる。
もっとも、この表現が心理学の実験で必ず記憶に残ると証明された、と主張するわけではない。実際にどの程度の効果があるかは、別の調査が必要だ。言葉の仕組みについての解釈と、測定された広告効果を混同しないようにしたい。
時代を越えるCM|身近な自然と企業の距離
技術の発展は、機械や数字のイメージで語られやすい。そこへ自然の大きな木を置くと、会社の事業を日々の暮らしから離れたものとして感じにくくなる。技術の会社が自然物を使って自分たちを説明するという意外な組み合わせが、このCMの魅力だ。
実際の木には成長や季節があり、ずっと同じ状態ではない。企業も同じで、時代の変化に合わせて事業の形を変えていく。大樹を変わらない権威の象徴としてだけでなく、成長し続ける姿として読むこともできる。
音と企業名を結びつけた例として、ファミリーマート「あなたと、コンビに、ファミリーマート」がある。日立は木の映像、ファミリーマートは言葉遊びと音を中心にする。記憶に残る企業の表現でも、使う材料と目的は異なると比較できる。
まとめ|大きな木が語る企業の姿
「この木なんの木」は、日立の「日立の樹」CMで親しまれてきた言葉だ。公式沿革で1973年のCM開始が確認できる一方、実写のモンキーポッドが採用されたのは1975年の第2代からである。企業公式の記録に文言と年次が対応しているため、出典タグ114とする。
この問いかけは、木への関心を引き出すと同時に、幅広い事業を一つの大樹に重ねる働きを持つ。商品一つでは語りにくい企業全体の姿を、誰もが知る自然のイメージで表していることが重要だ。
出典は日立公式沿革・1961〜1980年(1973年「日立の樹」CM)と日立公式テレビCM紹介。初代アニメーションと後年の実写の木を区別して説明した。