はじめに|「きれい」をどこまで広げるのか
「きれいを こころに 未来に」。花王が掲げるコーポレートスローガンには、清潔で整った印象を与える「きれい」という言葉が使われている。けれども同社の説明を読むと、身の回りを掃除することだけを指しているのではない。人の生活、心、さらには地球環境まで含めた言葉として位置づけられている。
花王の製品は暮らしの身近な場面に登場するため、「きれい」は使い心地や衛生の話だと受け取りやすい。しかし、スローガンの後半には未来という長い時間が置かれている。いまの清潔さと、将来の暮らしや環境をどうつなぐのかを考えさせる表現だ。
ただし「きれい」と言われると、見た目の美しさだけを求められているように感じる人もいるだろう。企業が何を意味しているかを確かめるには、言葉のイメージだけでなく公式の説明が必要だ。解釈を先行させず、発表の歴史と三つの領域を確認する。
出典|2021年に策定された企業スローガン
花王の公式「会社の歴史」には、2021年の出来事として、企業理念「花王ウェイ」の刷新と、新しいコーポレートスローガン「きれいを こころに 未来に」の策定が記録されている。文言、採用した企業、策定された年を当事者の記録で直接確認できる。
花王は2009年に別のコーポレートスローガンを策定しており、2021年の言葉はその延長にある変化として説明されている。企業の創業年と、特定のスローガンが生まれた年を混同しないことが大切だ。長く使われた企業名に、新しい約束が加わる場合もある。
現在の花王公式Q&Aも、この言葉の意味を具体的に紹介している。そこで挙げられるのは一人ひとりの生命、笑顔で暮らせる生活、持続可能な生態という三つの領域だ。単に響きのよい広告文句としてではなく、会社が何に貢献したいかを整理する表現になっている。
生命の「きれい」|人を一人ずつ見る
一つ目の領域は、人のいのちを輝かせる「きれい」だ。化粧品や日用品の機能だけを考えると、いのちという言葉は大きく感じられるかもしれない。けれども、日々の生活を安全で心地よく送ることは、人の健康や安心に関わっている。商品を使う場面の先にある生活者の状態へ視線を伸ばしている。
ただし、個別の製品が誰にでも健康上の利益を与えることを、このコピーだけで証明することはできない。使用条件や体質はさまざまだ。企業の理念として生命を大切にすることと、製品の安全性を根拠に基づいて確かめることは別である。
また、いのちを輝かせるという表現を、誰もが同じ外見や生活習慣を持つべきだという命令へ変えてはいけない。暮らし方や価値観は人によって異なる。一人ひとりに合う選択肢を尊重することも、生活者へ目を向けるという理念の一つの読み方になる。
生活の「きれい」|笑顔で暮らせること
二つ目は、皆が笑顔で暮らせる生活の「きれい」だ。ここでの美しさは、部屋の汚れが落ちるといった状態だけでは捉えきれない。毎日の家事が少し楽になったり、必要なときに安心して使えるものがあったりする経験も関わる。暮らしの質を、見た目だけでなく使う人の気持ちから考えようとしている。
生活を快適にする方法は一つではない。物を減らす人もいれば、道具を上手に使って時間をつくる人もいる。誰もが同じきれいな部屋を維持しなければならないという発想と、暮らしを支えるという考えは違う。企業の言葉にも、その幅を残して読みたい。
とはいえ、楽しそうな広告を見たことが、すべての利用者が満足したという証明にはならない。実際の評価には品質や利用のしやすさなどを確認する必要がある。掲げる価値と、各商品・サービスがどこまで実現したかは別々に評価するべきだ。
生態の「きれい」|未来の暮らしと環境
三つ目は、持続可能な生態の「きれい」である。人の暮らしに役立つ製品を作るだけでなく、その生産や使用、廃棄が環境とどう関わるかも考えるという方向性だ。自分の家の中だけが清潔なら十分という考えから、社会と地球全体へ視点を広げている。
ただし、環境を大切にすると掲げるだけで、その企業のすべての事業が環境負荷を十分に減らしたと評価できるわけではない。実際の成果には測定や公開された数値が必要だ。スローガンを成果の証拠にせず、何を検証すべきかを示す約束として読む姿勢が大切になる。
水を通して企業の姿勢を表したサントリー「水と生きる」と比べると、方向性の違いが見える。サントリーは水との関係を軸にし、花王は生命・生活・生態という三層へ意味を広げている。同じ環境への関心でも、言葉の入口は異なる。
まとめ|三つの「きれい」で未来を考える
「きれいを こころに 未来に」は、花王が2021年に策定したコーポレートスローガンである。企業公式沿革で文言と年を、公式Q&Aで三つの領域の意味を直接確認できるため、出典タグ114とした。
この言葉が示すのは、清潔さだけを広めることではなく、人の生命、日々の生活、地球の生態を一体として考えようという方向性である。近くの暮らしの問題と、長い未来への責任を同じ言葉に収めているところが特徴だ。
出典は花王「会社の歴史」2021年の項目、花王公式Q&A「コーポレートメッセージの意味」。採用の事実、企業の説明、ここで示した読解上の解釈を区別し、製品効果の保証には使っていない。