はじめに|自分を信じるとは、他人を無視することか
「Believe in yourself and go forward(自分を信じて前へ進む)」。ゲームクリエイターの小島秀夫が、2020年のBAFTA公式インタビューで若い制作者への助言として語った一節である。周囲の意見を聞きながら、最後は自分で判断する責任を引き受けるという意味が、直前の言葉と合わせて見えてくる。
創作の途中では、作品がまだ完成しておらず、周囲と同じ完成像を共有するのが難しい。別の人の意見に従うだけでは、最初に作りたかったものと違う方向へ進むこともある。不確実な状況で判断の軸を失わないための言葉として読める。
ただし「自分を信じる」とは、他人の意見を聞かずに強引に進めることではない。小島自身は、周囲の声を聞くようにも述べている。他者の知見を受け取りつつ、自分の責任で選択するという二つの姿勢が並んでいる。
出典|2020年BAFTA公式インタビュー
原典は英国映画テレビ芸術アカデミーが2020年4月1日に公開した「The Fellowship 2020: Hideo Kojima」という本人インタビューである。小島のゲーム制作歴を振り返り、最後に若い制作者への助言を尋ねた質問への答えとして、該当する英語の一節が掲載されている。発言者、公開日、質問、掲載箇所を主催者の原文で確認できる。
小島は、制作には日々の方向づけが必要であり、判断を誤ると最初の構想とは違ったものになり得ると話している。自信についての一般論ではなく、創作の過程に伴う責任を説明する文脈にある。
日本語の「自分を信じて前へ進む」は、英語掲載文の意味を伝える説明訳であり、本人の日本語での逐語発話を示すものではない。英語で公表された本人インタビューと、記事の説明訳を区別する。
創作の方向|完成する前の難しさ
映画やゲームは、完成した形を見れば意図を理解できることがある。しかし制作中は、どんな体験を目指しているかをすべての人へ正確に伝えるのが難しい。まだ存在しないものを作る仕事には、途中の判断を積み重ねる必要がある。
周囲から意見が出ることは悪いことではない。むしろ専門の異なる人の考えを聞くことで、新しい解決策が見つかる。意見を集めることと、最終的な方向を決めることは別の仕事として考えられる。
小島の一節が強調するのは、その最後の決断を人任せにしないということだろう。自分が作りたいものの意味を繰り返し問い直すことが、作品を形にするための支えになる。
自信と責任|判断を間違える可能性も引き受ける
自分を信じることには、間違いを認める余地も必要だ。自分が正しいと決めつければ、情報を更新できなくなる。確信を持つことと、現実の結果から学び直すことは矛盾しない。
制作を進めるときは、限られた時間や予算で取捨選択しなければならない。どの意見にも同時に応えようとすれば、作品の焦点がぼやけることがある。何を残し何を諦めるかを判断する責任が生じる。
その責任を他人へ押しつけず、自分の意思を言葉にして伝えることが重要だ。「自分を信じる」は、自分の選択について説明する覚悟も含むと読める。
ゲームという表現|既存の型をどう越えるか
小島は同じインタビューで、ゲーム業界の既存の型やプレイヤーの期待を越える工夫についても話している。慣れた形式を守るだけでは、新しい体験が生まれないという問題意識が見える。
とはいえ、予想外の変化だけを追えば作品が理解しにくくなることもある。どこまで新しくするかは、作り手と受け手の双方の条件を考える必要がある。創作者の自由と、遊ぶ人の理解しやすさを両立させる難しさがある。
異なる制作現場の言葉として、岩田聡「ゲームらしいゲームができた」の出典を扱う記事も参考になる。ゲームらしさとは何かを問い直すことは、作り手ごとに異なる具体的な課題を持つ。
まとめ|聞いたうえで、自分で決める
「Believe in yourself and go forward」は、2020年4月1日のBAFTA公式・小島秀夫インタビューにある若い制作者への助言の一節として確認できる。本人の英語掲載文と質問の位置を特定できるため、出典確認済みとして扱う。
この言葉は、他者との協力を拒むものではない。むしろ他者の声を聞いたうえで、どの方向を選ぶかの責任を担う姿勢を示している。相談と決断の両方を大切にするという点に意味がある。
自分で進む方向を決めるには、立ち止まって問い直す勇気も必要だ。自分を信じるとは、自分の判断を確かめ続けながら前へ進むことなのかもしれない。
創作の具体的な方法を考えるなら、高畑勲「映画を作るときはまず世界を描く」も参考になる。作り手が方向を選ぶ責任と、観客を作品世界へ招く工夫を別の角度から検討できる。