はじめに|成果を急がせないことは支援になるか
誰かを応援するとき、もっと早く結果を出してほしいと思うことがある。目標の進捗を確認し、次の期限を設けると、仕事が進んでいるように感じられる。しかし化学者の北川進は「時には待つことも支援だ」という趣旨の言葉を、若手研究者を支える人たちへ向けて語った。
この一節は、何もせず放置すればよいという主張ではない。北川は研究費を出し、自由な発想を認め、研究の時間を確保することも挙げた。そのうえで、成果が見えない期間を耐えて支える必要があると述べた。待つことを、関心を失うことではなく継続的な支援の一部として捉えるのである。
短い成果指標では測れない活動は、研究に限らない。新しい技術、長い創作、子どもの学びなどにも、すぐ結果が見えない時間がある。成果が出るまでの時間をどう守るかという問いを、この言葉から考えたい。
この名言の背景|研究の伏流性を語った講演
科学技術振興機構のサイエンスポータルは2026年9月24日、同月11日に行われた研究支援制度「さきがけ」35周年シンポジウムを報じた。京都大学の北川進は「創造の源流を育てる」と題する講演で、独創的な研究を長く支える重要性を語っている。発言は研究者への資金支援や評価のあり方を問う場面に登場した。
北川は自らの多孔性金属錯体などの研究を例に、着想が成果として認められるまで長い時間がかかったと説明した。雨が地中へしみ込み、地下水として流れて後に大きな川となる姿にたとえ、知の創造には「伏流性」があると述べた。見えない時間が後の大きな発見を支えるという比喩である。
さらに、論文数や引用数といった短期指標だけでは本当の創造性を測れないと指摘し、若手への自由な支援と時間の確保を訴えた。その末尾で、成功したかどうかだけでなく可能性を見ること、時には待つことも支援だという姿勢を求めた。単独の格言ではなく、研究環境を改善する具体的な提案の一節である。
この名言が示す深い意味|成果のない時間にも価値がある
新しい問いを研究する場合、最初から答えは決まっていない。試した方法がうまくいかなくても、その結果から次の仮説が生まれることがある。目に見える成果がない期間と、何も学んでいない期間は同じではないという点が、この言葉の核心だ。
ただし、時間を与えれば必ず成功するわけではない。うまくいかなかった理由を考え、研究方法を見直すことも必要になる。北川が求めたのは、変化の可能性がある仕事を短期間の数字だけで切り捨てないことだった。失敗から学ぶ機会を保ちながら、成果の判断には長い視野を持つというバランスが大切だ。
支援する側にも責任がある。相手の状況を知らずに放置すれば、必要な設備や相談先が不足したままになる。待つとは、適切な条件を整え、必要なら助けながら結果を急がせすぎないことだと読める。
この名言の現代的な解釈|短期の評価が見落とすもの
企業では四半期の売上や進捗が重視される。しかし新しいサービスの研究開発では、一定期間の試行錯誤が必要なこともある。今期の数字だけを見て価値を決めると、将来の可能性を早く閉じてしまう場合がある。
教育でも、学ぶ人によって理解の速さは異なる。課題をすぐ解けなくても、その人なりに考えている時間がある。必要な支援を受けながら、もう一度試す機会を持てることが大切だ。急がせる以外の育て方を選べるという視点が役立つ。
一方、待つという言葉を使って不公平な状況や危険を放置してはならない。安全性や必要な説明は、成果が出る前から確認すべきだ。長期の挑戦を認めることと、途中の責任を果たすことは両立する。
この名言を日常生活で実践する方法|成果以外の変化を確かめる
誰かの挑戦を支えるなら、まず目標と必要な条件を聞いてみる。結果がまだ出ていないときでも、何を試し、何が分かったかを確かめられる。評価する前に、試行錯誤の中身を知ることから始めたい。
次に、急いで結論を求める代わりに、必要な時間や資源を一緒に考える。期限を無制限に延ばすのではなく、どの時点で何を確かめるかを話し合う。考える時間を守りながら、判断の機会は失わないという支え方だ。
若手研究者へ独立して研究する機会を与える取り組みについては、冨永悌二の「若手の活躍を願う」という言葉も読める。能力を信じる姿勢を、実際に使える時間と権限に変えるという点でつながる。
まとめ|待つことは積極的な支援になり得る
「時には待つことも支援だ」は、2026年9月24日公開のJST「さきがけ」35周年シンポジウム取材記録で、北川進が若手研究者への支援姿勢を述べた文中の一節だ。原文では「そして時には待つことも支援だという姿勢をお願いしたい」と続くことを確認できる。
北川は、独創的な研究がすぐ成果になるとは限らないことを、長い時間をかけた自身の研究から説明した。そこで求めたのは、自由な発想を支え、表面的な短期指標だけで研究者を判断しないことだった。成果を急がせない環境も、創造性を育てる支援の一つなのである。
人の挑戦を支えるときは、結果が見えないことだけで可能性を閉じないでいたい。ただし必要な助けを放棄せず、学びの過程を確かめる。急かすことでも放っておくことでもない、見守りながら支える方法を、この言葉は示している。