はじめに|専門分野を一つの目標へつなぐ難しさ
多様な専門家が集まる組織で、全員が同じ目標を理解することは簡単ではない。長崎大学の学長・永安武は、大学の研究を結ぶ構想について「誰も取りこぼさないサスティナブルな目標になるだろうと考えました」と語った。共通の方向を示しながら、異なる専門性の居場所を残そうとする言葉である。
この一節だけを読むと、誰もが同じ研究テーマへ従うべきだと聞こえるかもしれない。しかし永安が説明したのは、感染症、放射線、海洋、人文・社会科学など、もともと異なる強みを持つ大学をどう結び付けるかという課題だった。一つの言葉で違いを消すのではなく、違いを関連付ける方法を探したのである。
会社や地域の活動でも、大きな方針を掲げたものの、自分の仕事と関係が見えない場合がある。目標を作ることと、一人ひとりが参加できる理由を示すことは別の仕事だ。この言葉から、その違いを考えてみたい。
この名言の背景|長崎大学が掲げた地球の健康
科学技術振興機構のサイエンスポータルは2026年2月27日、長崎大学学長・永安武へのインタビューを公開した。取材では、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業に採択された大学が、その歴史や地域の特徴をどう生かすかを尋ねている。長崎の医学伝習や感染症研究、被爆地としての研究が背景にある。
長崎大学は「プラネタリーヘルス」、つまり地球と人々の健康を考えることを全学共通のテーマにしていた。しかし永安によれば、一部の教員には自分の研究とその言葉のつながりが見えにくかった。そこで2023年、グローバルヘルス、グローバルリスク、グローバルエコロジーという三つの柱を示したという。
感染症研究はヘルス、放射線医療科学や紛争の課題はリスク、海洋研究はエコロジーにつながる。永安は、この三つの枠組みに研究を位置付けることで、プラネタリーヘルスが共通言語になると説明した。今回の一節は、大学全体の構想を現場の研究へ接続する方法を語った回答にある。
この名言が示す深い意味|共通言語は違いを消すためではない
組織で同じ言葉を使っていても、部署や専門分野が違えば、その言葉から想像する仕事は異なる。単にスローガンを繰り返すだけでは、自分の役割が分からないままになる。大きな目標と具体的な仕事の間に、理解を助ける言葉を置くことが重要だ。
永安が示した三つの柱は、専門の異なる研究者が自分の活動との接点を考えるための枠組みだった。気候変動やパンデミックのように、一つの専門分野だけでは扱いきれない問題もある。違う知識をつなぐために、共有できる問いを作るという発想である。
ただし、共通言語を作れば意見の対立がなくなるわけではない。研究の方法や優先順位は違うままであり、必要に応じて議論する必要がある。全員に一つの答えを要求せず、違いを説明し合える土台を作ることが、本当の意味で包摂的な目標につながる。
この名言の現代的な解釈|組織の理念を現場に届ける
企業が「顧客中心」を掲げても、営業、開発、管理部門がそれぞれ何をすべきか分からなければ、理念は掲示物のまま終わる。顧客の困りごとを把握する、使いやすさを確かめる、問い合わせへ適切に答えるなど、部門ごとの行動へ翻訳することで共通目標が意味を持つ。
学校や地域活動でも、環境を守るという大きな方針は、日々の活動との接点が見えにくい場合がある。自分たちの地域で何を確かめ、どんな協力ができるかまで考えると、他人事ではなくなる。誰が何に関われるかを見える形にすることが参加の第一歩だ。
もっとも、理念を広くしすぎると何でも当てはまり、優先順位が不明になる危険もある。永安の三つの柱のように、関連付ける理由を説明できることが重要だ。包み込む言葉には、実際の活動を整理する役割も必要なのである。
この名言を日常生活で実践する方法|大きな方針を自分の言葉へ
自分の所属する組織の目標を一つ選び、その目標に自分の仕事がどう関係するかを短い文章にしてみる。すぐ答えが出なければ、担当業務をいくつかに分けて考えよう。抽象的な言葉と、今日できる行動をつなぐ練習になる。
次に、別の役割にいる人へ同じ目標をどう理解しているか尋ねてみる。意外な共通点や、言葉の使い方の違いが見つかることがある。互いに正解を押し付けず、違う仕事の人が同じ問題へどう貢献できるかを確かめたい。
大学の制度を変えて若手研究者の力を生かそうとする姿勢については、冨永悌二の研究者育成に関する記事も参考になる。組織全体の方針を、個々の人が働きやすい条件へつなげるという課題を考えられる。
まとめ|違う専門をつなぐ共通の目標
永安武の「誰も取りこぼさないサスティナブルな目標になるだろうと考えました」は、JSTサイエンスポータルの2026年2月27日公開インタビューで、長崎大学のプラネタリーヘルス構想を説明した一節だ。三つの研究領域をつなぐ言葉をどう設けたかという文脈を原文で確認できる。
永安は、異なる研究分野を一つの型へ無理に合わせるより、互いの研究が大きな課題とどう関係するかを分かりやすくする方法を示した。そこでは、理念が大きいことより、実際に参加できる理由を見つけられることが大切になる。
共通の方向を持ちたいなら、それぞれの違いを丁寧に理解する必要がある。誰の活動がどう役立つかを確かめ、対話を重ねていく。共通言語は人を同じにするためでなく、違う人が協力するためにあるという教訓がこの言葉にある。