はじめに|不具合が出て喜ぶ理由
試験で不具合が出ると、失敗したと思うのが普通だろう。ところがJAXA宇宙科学研究所の髙島健は、衛星開発の現場で「今ここで不具合が出てよかった」と考えた経験を語っている。見つかった問題を歓迎するとは、いったいどういうことなのか。
失敗を喜ぶという言葉を、仕事を雑に進めてもかまわないという意味に受け取ってはならない。宇宙へ打ち上げた後では修理が極めて難しい衛星だからこそ、まだ対策できる地上で問題を発見する価値が大きい。
髙島が語ったのは、何でも前向きに捉えようという精神論ではない。試験を追加したことで重大な不具合が見つかり、打ち上げ前に対策できたという具体的な経験だった。不具合が出た時期が重要なのである。
私たちの仕事でも、公開後に利用者が困るより、検証中に欠陥を見つける方がよい場合が多い。問題を隠すより、修正できるうちに知るという発想を原典から考える。
原典|JAXA『宇宙・夢・人』第189回
原典はJAXA宇宙科学研究所「経験を伝える」。ISASニュース2026年2月号に掲載された、宇宙機応用工学研究系教授・髙島健のインタビューである。本人の氏名と、発言した業務の背景が公式記事に明記されている。
髙島はジオスペース探査衛星「あらせ」の地上試験で、予定より早く試験が終了した日にメーカーの提案で追加試験を行ったと説明する。そこで重大な不具合が発生し、解析すると発生確率は1万回に1回だったという。偶然見つかった問題を、再発防止へ結びつけた実例だ。
仮に打ち上げ後に同じ不具合が起きていれば、衛星はすぐに運用終了となっていた可能性があるとも述べている。一つの故障が大きな成果を失わせ得る環境では、試験中の異常に特別な意味がある。
インタビューには、過去に携わった火星探査機「のぞみ」で予定の火星周回軌道へ投入できなかった経験も記されている。その蓄積が地上試験の重要性を強く意識させた。過去の失敗が、次の問題の見つけ方を変えたという文脈だ。
深い意味|失敗する時期を選べるか
完成した製品や仕組みの問題が利用者の手元で初めて見つかれば、影響は大きくなることがある。反対に、準備段階で同じ問題を見つければ、直す時間を確保しやすい。問題をゼロにしたと信じるより、発生を想定して確かめる態度が大切だ。
ただし、試験で不具合が出れば必ずよいというわけではない。被害や危険を伴う試験を無制限に増やしてよい理由にはならない。安全な条件で検証し、原因を調べ、改善につなげることが前提になる。
また、最初から誰も失敗を認めたがらない職場では、不具合が隠されてしまうかもしれない。試験中に問題が発見された事実を、単に担当者の落ち度として責めない。報告された異常を組織の学習につなぐ文化も必要だ。
髙島の発言は、成功したから失敗を美談にしたというだけではない。失敗によって得た情報を具体的な設計変更へ変えるという、技術開発の基本的な仕事を示している。
現代的な解釈|公開前に問題を見つける価値
ウェブサイトの更新やアプリの開発では、公開前の確認によってリンク切れ、表示の崩れ、誤った情報を見つけられる。完成したつもりの時期にもう一度検証することは、利用者にとって大切な配慮となる。
文章の場合も、誤引用や日付の間違いを公開後に発見するより、執筆中に確認できる方がよい。ただし公開後に気づく場合もあるため、修正履歴や出典を追える仕組みも持っておきたい。
仕事で不具合を報告するときには、「うまくいかなかった」で終わらせず、どの条件で起きたのか、どの程度再現するのかを確かめる。失敗を説明可能な情報へ変えることが次の対策を助ける。
一方、衛星と日常の小さな作業では危険や費用の規模が異なる。技術的な事例をすべての場面へそのまま当てはめないという慎重さも必要である。
日常生活で実践する方法|試して確かめる手順
重要な作業を終えたら、結果を公開する前に、どんな条件で失敗しそうかを一つ考えてみる。うまく動く場面だけを確認しないことが、思い込みを減らす。
問題が見つかったら、誰が悪いかを先に決めるのでなく、どの操作で起きたかを記録する。再現できる事実を残すことが、修正の出発点になる。
修正した後は、同じ問題が起きないかだけでなく、別の部分に悪影響がないかを確かめる。直したつもりを、検証で確かな改善にするための手順だ。
宇宙への挑戦を別の角度から語った記事として、古川聡「すべての夢が必ずしもかなうわけではない」も読める。夢に挑む姿勢と、試験中に問題を見つける技術的な姿勢を区別して考えたい。
未知の仕事にどう踏み込むかという別の問いは、小川恵美子「面白いと思うことには臆せず挑戦していきたい」でも考えられる。髙島が試験で問題を見つけた後の対応を語ったのに対し、小川は経験のない分野へ飛び込む際の好奇心を語る。挑戦の入口と検証の現場を読み比べたい。
まとめ|問題を見つけることも成果である
髙島健の「今ここで不具合が出てよかった」は、JAXAの衛星「あらせ」の開発中に重大な問題を見つけ、対策できた経験から出た言葉だ。失敗そのものを目的にするのでなく、直せるうちに発見した価値を語っている。
不具合を防ぐには、成功を信じる気持ちだけでなく、異常が起こり得ることを考えて試す必要がある。問題が見つかっても報告できることも重要な条件だ。
結果が思いどおりでなかったとき、そこから何を知り、どんな対策を取れるかを問う。失敗を隠さず次の判断へ役立てる姿勢を学べる。
出典はJAXA宇宙科学研究所『宇宙・夢・人』第189回「経験を伝える」(ISASニュース2026年2月号)。髙島健本人の「今ここで不具合が出てよかった」と、追加試験・1万回に1回の不具合・事前対策の説明を公式インタビューで直接照合したため、タグ114とする。
JAXAの宇宙科学プロジェクト全体における挑戦と失敗の考え方は、澤井秀次郎「失敗がないものは挑戦とは言えない」でも扱っています。髙島健が試験で見つけた具体的な不具合と、澤井が研究組織で許すべき「いい失敗」を語ったことを区別して読めます。