はじめに|興味は何を変えるのか
「何かに興味を持てば、その興味が持つ力にきっと驚くだろう」。ノーベル化学賞を二度受賞したバリー・シャープレスは、2023年公開の公式対話でこう語った。最初から優れた才能を確信していたわけではなく、興味を持ったことから新しい考えが生まれたという自身の経験に根ざしている。
興味を持てば必ず成功できる、と約束しているわけではない。自分の関心から出発しても、結果が得られないことや、思いがけない方向へ進むことはある。好奇心と成果の保証を区別することが、この言葉を読む出発点になる。
研究者の話というと、幼いころから天才的なひらめきを持っていたと想像するかもしれない。しかしシャープレスは、自分で価値があると感じたアイデアが生まれたのは大学の最終学年ごろだったと語る。新しい考えを生む時期は人によって異なるという示唆がある。
短い一節だけを切り出すより、どんな経験の後に興味の力を語ったのかを、本人の対話に戻って考えたい。
原典|2023年6月22日公開のノーベル賞公式対話
原典はNobelPrize.org「K. Barry Sharpless – Nobel Prize Conversations」。2023年6月22日公開の対話に「if you’re interested in something, you’d be amazed what interest can do」と記されている。本人の発言、公開日、英語原文と話の位置を公式文字起こしで特定できる。
その直前でシャープレスは、大学の最終学年に受けた海洋学の授業を振り返っている。ウナギがサルガッソ海へ戻る仕組みを考えて論文を書き、初めて新しいアイデアだと感じたという。化学賞受賞者の最初の実感が、化学そのものではなく海洋への関心から生まれた点は興味深い。
彼は2001年に不斉酸化反応に関する研究、2022年にはクリックケミストリーに関する研究でノーベル化学賞を受けた。別の時期に異なる研究成果を生み出した人物が、好奇心の重要性を振り返った記録である。
なお公式サイトの文字起こしには、音声認識を利用し、人が確認しても誤りが残り得るという注意書きがある。今回の日本語は掲載英文の説明訳であり、逐語の完全性まで主張しない。
深い意味|好奇心は観察の仕方を変える
興味を持つと、それまで気づかなかった細部へ目が向くことがある。身近な現象でも、なぜそうなるのかを考え始めると新しい問いが生まれる。見慣れたものへの注意の向け方が変わることが、発見の一歩になり得る。
シャープレスは対話の中で、自分がほかの人より先に何でも知っていたとは話していない。むしろ予想外の結果や、試していない条件が気になると述べる。分からない点を見つけたとき、そこで考えることをやめない姿勢がうかがえる。
一方、興味を持ったものをすべて研究すればよいというわけではない。時間や資源は有限で、どの問いを追うか判断する必要がある。好奇心を大切にすることと、研究を計画することは両立する。
また、成果が出た後に振り返ると、偶然の発見まで必然だったように説明したくなる場合がある。その時点では何が分からなかったのかを忘れずに記録することが、学びを正確に残す助けになる。
現代的な解釈|学び直しの出発点を探す
新しい分野を学ぶとき、まず資格や教材を選ぶ人も多い。しかし本当に知りたいことが分かれば、必要な知識を探しやすくなる。学習の手順だけでなく、自分が解きたい問いを考えてみたい。
生成AIなどの道具を使う場合も、何かを一瞬で作れる便利さだけに注目すると、確かめたいことが曖昧になるかもしれない。何を理解し、どの根拠で確かめたいかを先に言葉にすることが役立つ。
ただし、興味を持てないことを学ぶ必要がある場面もある。仕事や生活の責任は好奇心だけでは決まらない。興味のある活動と、必要だから取り組む活動を区別することで、無理のない学び方を考えられる。
研究者の人生を理想化せず、必要な支援や実験環境も見ておきたい。個人の好奇心が成果になるには、時間や人との協力が必要になる場合がある。
日常生活で実践する方法|一つの疑問を深める
最近気になったことを一つ選び、何が分からないか短い文章にしてみる。答えを探す前に、自分が持っている問いの形を確かめる方法だ。
調べてみて予想と違う情報が出てきたら、すぐに間違いだと切り捨てない。資料を確認し、なぜ違っていたのか考える。予想外の結果から次の問いを見つけることができる。
興味のあることを誰かへ説明するときには、結論だけでなく、どこが不思議だったのかを伝えてみる。発見への過程を共有すると、ほかの人も別の問いを持てるかもしれない。
科学の結果から学ぶ姿勢を考えるなら、山中伸弥「自然そのものが偉大な教師だった」も読める。好奇心によって問いを見つけることと、予想外の実験結果を教師として受け止めることを比較できる。
まとめ|興味から生まれる問いを大切に
「興味が持つ力にきっと驚く」は、バリー・シャープレスが2023年のノーベル賞公式対話で、自分の初めてのアイデアを振り返って語った言葉である。関心を持って観察し、問いを追い続けることの可能性を示している。
好奇心は努力や検証を必要としない魔法ではない。面白いと感じたことを、観察と実験へつなげていく中で力を持つ。
新しいものに関心を持ったとき、何を確かめたいのか考える。自分にとって自然に生まれた疑問を、学びのきっかけにすることから始められる。
原典はNobelPrize.org「K. Barry Sharpless – Nobel Prize Conversations」(2023年6月22日)。大学最終学年の海洋学授業で初めて独自のアイデアを感じた話の直後に「you’d be amazed what interest can do」と述べていることを公式文字起こしで確認したためタグ114とする。