はじめに|専門でないからこそ気づくもの
仕事に必要なのは専門知識だけだろうか。複数の分野が関わる活動では、各分野の詳しい人がいるだけでなく、全体をつなぐ人も必要になる。JAXAの小川恵美子は、自分の専門が探査機の全分野に及ぶわけではないと説明した上で「だからこそ、プロジェクト全体を広く見渡すことができる」と語った。
この一節は、専門知識がない方が優れた仕事ができるという主張ではない。本人は理学系の背景を持ち、工学的な専門家や別の研究領域の人と一緒に仕事を進めている。専門が異なることを、全体を調整する視点へつなげようとする姿勢が見える。
一つの仕事に詳しくなるほど、そこから見える世界は深くなる。一方、別の役割の人がどこで困っているのかは、意識して聞かないと分からないこともある。深く知ることと、広く見渡すことは異なる仕事だと考えたい。
「だからこそ」という言葉には、欠けているものを嘆くのではなく、今ある経験をどう使うかという発想がある。自分の背景が違うことを、協働へ役立てる可能性を探ってみたい。
原典|JAXA「宇宙・夢・人」第190回の本人回答
出典はJAXA宇宙科学研究所「宇宙科学プロジェクトへ飛び込んだ先に」。第190回の小川恵美子本人インタビューに、「だからこそ、プロジェクト全体を広く見渡すことができると思っています」と明記されている。
小川が関わるDESTINY⁺は、探査機による小惑星フェートンへの接近観測などを目指す理工一体のミッションである。本人は地上側の運用に必要な仕組みや探査機システム、予算管理にも携わると説明している。異なる仕事の接点を扱う役割だ。
本人は理学系出身で、熱や構造などの工学的な専門性は持っていないと述べる。また大学院時代の専門も、小惑星やダストそのものではなかった。その説明の直後に選んだ一節が続く。謙遜としての一般論ではなく、実際の担当業務に根ざした発言である。
同じインタビューでは、楽器の違う人が一つの曲を作る吹奏楽の経験と、宇宙科学プロジェクトを重ねている。異なる人が力を合わせる楽しさを、学生時代から実感していたという背景も読み取れる。
深い意味|専門の境界に立つ仕事
一つの分野を深く知る人は、その分野の難しさを理解している。反面、別の分野の担当者には当然でない前提を持っている場合もある。互いの前提を確かめ、言葉をつなぐ役割が全体を動かす手掛かりになる。
小川の発言は、専門外の人が自由に判断してよいという意味ではない。技術的な判断には知識や検証が必要である。分からない点を専門家へ確認しながら、全体の関係を把握することが大切になる。
理学と工学のように目的や方法が異なる分野を一緒に進めるには、何を観測したいかと、何が技術的に可能かをすり合わせる必要がある。片方を優先するだけでなく、目標を共有しながら調整する姿勢が欠かせない。
また、専門の違いがあるからといって、必ず全体を見る力があるわけでもない。話を聞き、学び、分野ごとの事情を知ろうとする努力が要る。異なる経験が強みになるかどうかは、その後の行動にも左右される。
現代的な解釈|職種の違いを強みにする
企業では企画、営業、開発、運用のそれぞれが重要な仕事を担う。利用者の問題が複数の職種にまたがるとき、一つの部署だけでは全体が見えないことがある。何を実現するかを共通の言葉へ変える役割が必要になる。
転職や職種変更を経験した人は、以前の分野では当然だった考え方を新しい職場へ持ち込むことがある。うまく使えば改善の手掛かりになる一方、前のやり方を押しつければ摩擦も生む。違いを活かすには、まず現在の現場を理解する必要がある。
研究でも、異なる専門の人が話すと、いつもの方法で見落とした問いが見つかる場合がある。異分野の視点を取り入れることと、専門的な根拠を大切にすることは両立する。
仕事が複雑になるほど、一人が全てに詳しくなるのは難しい。だからこそ、誰が何を知っているかを把握し、必要な時に協力を求められる関係が重要だ。全体を見ることは、一人で全てを決めることとは違う。
日常生活で実践する方法|知らないことを聞けるようにする
新しいチームへ入ったら、最初に部署や担当者の役割を書き出してみる。専門用語が分からなければ、その言葉が何のために使われるか質問する。知識の不足を隠さず確認することが、全体像をつかむ第一歩になる。
会議では、異なる立場の人が何を心配しているかを整理する。相手の反対意見が、別の重要な条件を示しているかもしれない。同じ目標へ向かうために、立場ごとの事情を聞く姿勢が役立つ。
自分が専門外から参加するなら、独自の意見を出す前に現場の人から学ぶ時間を確保したい。新しい視点は、専門家への敬意を持ってこそ協働に生きる。
同じ小川恵美子の別の言葉は「面白いと思うことには臆せず挑戦していきたい」で扱っている。前の記事が新しい分野へ飛び込む姿勢なら、今回は参加した後に全体をどう見るかを考える。
まとめ|専門の違いを全体を見る力へ
小川恵美子の「だからこそ、プロジェクト全体を広く見渡すことができる」は、JAXA宇宙科学研究所の第190回公式インタビューで確認できる。理学系出身で異なる分野の専門家と仕事をする本人の実感を伝える。
この言葉は、専門性を持たないことが常に有利だという主張ではない。自分の知識の限界を理解し、別の専門家の働きをつないで全体を見ようとする姿勢に意味がある。
仕事を広く見るには、単に離れた場所から眺めるだけでは足りない。各分野の人が何を目指しているかを聞き、共通する課題を見つける必要がある。全体像は、人との対話を通じて作られる。
自分の経歴が一つの分野に収まらないと感じる人も、その違いを弱点だと決めなくてよい。どのような関係をつなげられるかを考えることが、新しい役割へ進む入口になる。