はじめに|最初から夢が決まっていなくても
「進む道は一つだけではない」。NASAの天体物理学者エリサ・キンタナが、自分の歩みを振り返って語った趣旨の一節だ。子どもの頃から宇宙研究者を志したわけではない彼女の経験は、最初の進路選択で将来がすべて決まるわけではないと考えるきっかけをくれる。
宇宙を研究している人は、幼い頃から星を見上げて夢を抱いていたと思われがちだ。しかしNASA公式紹介でキンタナは、そんな物語は自分には当てはまらないと説明する。理想的な経歴に自分を無理やり当てはめない率直さが、この言葉の魅力だ。
一方、努力しなくても偶然に成功するという主張に変えるべきではない。彼女は興味が生まれた後に学びを重ね、研究へ進んでいる。出発点が違っても、その後に学べるという可能性を考えたい。
この言葉の背景|NASAで系外惑星を研究する科学者
NASAの公式人物紹介には、エリサ・キンタナが学校に関心を持てない時期を経験し、短期大学に進んだことが記されている。家族に科学者はおらず、大学院で研究するという道も身近ではなかったという。本人への取材から、進路が一本道ではなかったことを確認できる。
転機は友人に誘われるように履修した微積分の授業だった。さらに物理も学び、大学へ編入し、その後に系外惑星の研究へ進む。最初は強い使命感より、試してみた授業から関心が生まれたという具体的な道筋がある。
NASA記事では、2014年にキンタナがKepler-186fの発見チームを率いたことも紹介される。本人は遅咲きだったと表現し、英語で「there isn’t just one path」と語る。研究成果を振り返ったうえで、道の多様さを認めた本人の発言なのである。
この名言が示す深い意味|得意不得意は固定されない
学校で苦手だと感じた科目が、別の授業や先生との出会いで面白くなることがある。だから一度の成績で、その分野へ向いていないと確定する必要はない。今の評価と、将来の関心が育つ可能性を分けることができる。
一方、すべての人が科学者になれるという結果の保証でもない。時間、経済状況、教育を受けられる環境によって選択肢は違う。可能性を広げるには本人の意欲だけでなく、試せる機会も必要だという視点が欠かせない。
キンタナの言葉は、後になって関心を見つけた人を特別視するものでもない。早くから目標がある人の道も、途中で変わる人の道もあり得る。どの順序で学び始めても、本人の経験を丁寧に見てよいという教えを受け取れる。
現代的な解釈|キャリアを一本の物語にしない
職務経歴を説明するとき、すべての経験を最初から計画していたかのようにつなぎたくなる。しかし実際は、別の仕事を経験して初めて興味に気づくことも多い。寄り道した理由や学び直した事実を、隠すべき失敗と決めつけないことが重要だ。
子どもの教育でも、早く得意分野を決めることだけが正解ではない。試せる活動が複数あれば、本人の関心が後から現れる場合がある。早い段階の苦手意識を、将来の選択肢の禁止札にしない余裕を持ちたい。
また、学び直す人へ無理な挑戦を勧めるのも違う。生活を守りながら少しずつ試す方法もある。道が複数あるとは、全員に大きな転身を求めることではないと理解したい。
日常生活で実践する方法|小さな興味を試してみる
気になる分野があれば、最初から高い道具や長期の講座を契約せず、入門記事や公開講座から触れてみる。今の自分が何に面白さを感じるのかを確かめることが先決だ。
試してみて難しかったとしても、何が分からなかったか一つ記録する。必要なら説明の違う教材を探す。苦手だったという印象だけで、その分野すべてを閉じないための小さな工夫になる。
そして進む道を変えるときには、周囲に助けを求めることも考えよう。学びの機会や制度を知る人がいるかもしれない。一人で最初から正しい道を選ばなければならない、という思い込みから離れることができる。
科学者の仕事が個人の努力だけで完結しないことを考えるなら、デイヴィッド・ベイカー「研究室に『共同の脳』を育ててきた」も読み比べられる。キンタナは研究者になる道の多様さを、ベイカーは研究者になった後に知恵を結びつける方法を語っている。学びの入口と研究室の協力を、異なる側面として考えたい。
まとめ|進路は途中からも育てられる
エリサ・キンタナの一節は、NASA公式人物紹介に掲載された本人発言で確認できる。子どもの頃に天文学者を目指していなかった経験と、遅咲きの学習歴を述べた後に、道は一つではないと語る文脈の言葉だ。
重要なのは、努力と学習が不要だという意味ではない。最初の興味や成績から将来を決めつけず、経験の中で方向を変えられる可能性を認めることだ。進路を固定した線ではなく、学びながら選び直せる道として考える。
同じNASAで学びの重要性を語ったキャサリン・ジョンソン「数学はいつまでも必要とされる」とも読み比べたい。キンタナは学びへ入る道の多様さを、ジョンソンは学びの基礎の価値を語っている。原典:NASA Science「Elisa Quintana」。