はじめに|技術と感動を一行で結ぶ
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」。ソニーがPurpose(存在意義)として掲げる言葉である。何を作る企業かという製品の説明より、何のために多様な事業を営むのかという方向を示す一節として読む必要がある。
「世界を感動で満たす」という表現は大きい。だが、すべての人が同じ作品を好み、同じ製品に感動するという主張ではない。音楽、映画、ゲーム、電子機器などを通じて人の創作や体験を豊かにするという企業側の目標を語るものだ。
企業の短い言葉は宣伝にも見えるが、実際の役割は一つではない。顧客への説明に加え、異なる事業で働く人々がどこを目指すのかを共有する機能もある。外向けの魅力的なコピーと、社内の共通目的の両面を持つ表現である。
原典|2019年のソニー公式経営資料
ソニーが公開した2019年経営方針説明会の英語資料には、Purposeとして “Fill the world with emotion, through the power of creativity and technology.” と掲げられている。英語の全文とPurposeという役割を2019年の企業一次資料で直接確認できる。
同社の公式「ソニーグループについて」には、現在も日本語で「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」と掲載されている。したがってここで紹介する日本語は、筆者が自由に作った訳ではなく、企業自身が示す日本語のPurposeである。
さらに2021年のソニー公式ブログは、このPurposeが2019年1月に吉田憲一郎CEOによって導入されたと説明する。2019年の資料に存在することと、採用時期の説明を区別することができる。少なくとも企業が確認する導入時期は2019年1月であり、創業当初の標語として紹介してはならない。
「クリエイティビティ」と「テクノロジー」の関係
創造性と技術は、どちらか一方があれば十分というものではない。音楽や映像の表現には創作者の視点が必要であり、それを届けるためには録音、撮影、配信、再生などの技術が関わる。技術を創造性の代用品にせず、創作者の可能性を広げる道具として位置づける読み方ができる。
ソニーはゲーム、音楽、映画、イメージングなど多様な事業に携わる。部門ごとの商品は異なっていても、人の体験に新しい価値をもたらすことを共通の目的として掲げられる。事業が広がるほど、製品名ではなく存在理由を共有する意義が大きくなる。
一方、感動を起こせる技術という表現は、技術さえ高度であれば感情を生み出せるという保証ではない。受け手の好みや状況、文化の違いによって評価は変わる。技術的な性能と、人が受け取る意味を同じものと考えないことが大切である。
なぜ「世界」という大きな主語なのか
「世界を満たす」は、具体的な売上目標や市場占有率を述べた言葉ではない。さまざまな地域や領域で価値を届けたいという方向の表現である。定量目標ではなく、組織が向かおうとする価値の範囲を示している。
ただし、地理的に広がるだけでは、多様な人のニーズへ対応したことにはならない。作品や製品を使う人の条件も、創作する人の環境も異なる。世界という言葉の重さは、多様な人の経験を理解しようとする実践によって確かめられる。
2019年の資料では、ソニーが電子機器の会社から音楽、映画、金融、ゲームなどへ事業を広げてきた背景を述べている。グループ内の異なる仕事を一行のPurposeへまとめるには、会社の歴史の違いを無理に消さず、共通する価値を探す必要がある。
存在意義と経営方針を混同しない
Purposeは、企業が何のために存在するかを説明する。これに対して経営計画は、どの領域に投資するか、どのようなサービスを成長させるかという具体的な判断を扱う。理念が大切だからといって、計画の良し悪しが自動的に決まるわけではない。
ソニーは2024年の統合報告書で、Purposeと長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」との関係を説明している。ビジョンはテクノロジーに裏打ちされた創造的なエンタテインメント企業を目指す方向を示す。PurposeとVisionが同じ言葉ではないことを区別したい。
さらに現実の事業では、安全、プライバシー、著作権、労働環境などの課題が生まれる。感動を届けるという表現を掲げるだけで、そうした問題が解決するわけではない。美しい言葉と実際の責任を別々に検証することで、企業の説明をより具体的に理解できる。
他社の言葉との比較|技術を何に結びつけるか
同じく技術を重視する企業の言葉として、ニコン「Unlock the future with the power of light」を挙げられる。ニコンは「光」の可能性を、ソニーは「クリエイティビティとテクノロジー」をそれぞれ中核に置く。二社の表現は似た希望を語っていても、強調する強みが異なる。
ソニーの歴史を創業時までさかのぼるなら、井深大の人物ガイドも参照できる。1946年の設立趣意書と2019年のPurposeは、成立した時代と文章の役割が違う。共通する価値観があるか考えることと、昔から同じ言葉が存在したと誤認することは別である。
自分の仕事で応用するなら、専門分野を列挙する前に、その力を誰に、何のために届けるのかを考えるとよい。ただし言葉を作ることが目的にならないよう、利用者の経験から検証する。存在意義は魅力的な文章で終わらず、意思決定に影響して初めて意味を持つ。
まとめ|感動を生み出す方法と目的を分ける
ソニーの「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」は、企業公式資料がPurposeとして掲げる一節である。2019年の経営資料では対応する英語表現を確認できる。創造性と技術を手段に、人々の体験を豊かにしたいという企業の存在意義が示されている。
一方で、目的を宣言したことと、製品やサービスが目標を実現したことは同じではない。具体的な事業の成果と課題を別途確かめる必要がある。言葉の由来を正確に知り、実際の行動とも照らすことがブランド理解の基本となる。
原典確認:ソニー「Strategy Meeting 2019」と公式企業情報。タグ114根拠:2019年の公式資料に英語のPurposeを、現行企業情報に該当する日本語表現を直接確認。広告コピー・企業スローガンのハブから関連する言葉も探せる。