はじめに|「よろこび」がつながるとは何か
「よろこびがつなぐ世界へ」。キリングループが掲げるコーポレートスローガンである。一人が感じたうれしさが、別の人や社会へ広がることを願う言葉として示される。個々の商品の特徴より、グループがどんな社会を目指しているかを伝えている。
「よろこびがある世界」と言い切らず、最後を「世界へ」としている点に特徴がある。現状の達成を宣言するのではなく、これから向かう方向を指す。完成した成果ではなく、未来へ進むための合言葉として読むのが適切だ。
ただし、よろこびを掲げる企業の事業が、すべての人を幸せにすると保証されるわけではない。企業が伝えたい方向と、個別の商品・サービスがもたらした結果を分けて確かめる姿勢が必要になる。
原典|2019年1月の制定と現行公式表示
キリンホールディングスの公式「コーポレートスローガンと企業活動」ページは「よろこびがつなぐ世界へ」を正式なスローガンとして掲載する。そこには、一人ひとりの幸せがほかの幸せにつながるという会社の考えも説明されている。文言と会社による意味の説明を同じ一次資料で照合できる。
さらにキリンホールディングス採用サイト「新コーポレートスローガン」には、2019年1月の長期経営構想とミッション・価値観の見直しにあわせて、この言葉を制定したと明記されている。現在の使われ方と制定時期を、それぞれ公式資料で確認できる。
この文言を明治期のキリンビール創業から続く言葉と扱うのは正しくない。また、2019年のスローガン制定と現在の事業実績を混同するべきでもない。どの年に言葉が採用されたかという事実と、現在どのように実現を目指すかという評価を分けることが大切だ。
「よろこび」|人によって違う価値
人がよろこぶ場面は、家族と食事をする時間、健康への不安が和らいだとき、仲間とスポーツを楽しむ時間などさまざまだ。キリンの公式ページでも、食、医、ヘルスサイエンス、サッカーという異なる領域を取り上げている。一種類の喜びに企業全体の役割を閉じ込めない考え方が見える。
とはいえ、誰かにとっての楽しさが、別の人にとっても同じ価値を持つとは限らない。生活環境や年齢、健康の状態によって必要なものは異なる。「よろこび」を共通の目的としながら、具体的な体験の違いを尊重することが重要だ。
また、広告で喜んでいる人の姿を描くことと、実際に利用者が満足したかは別問題である。相手の声や継続的な評価によって、約束が本当に届いているかを確かめる必要がある。
「つなぐ」|人と人、人と社会、人と自然
公式ページのブランドムービー紹介では、人と人、人と社会、人と自然を結ぶという考えが説明されている。製品を買った人だけで完結せず、その先に生まれる関係へ目を向けるところに、この動詞の役割がある。
食べ物や飲み物は人と時間を共有する機会になりうるが、それだけでは人間関係の問題をすべて解決できない。自然との関わりについても、原料や水、エネルギーの使用を調べることが必要だ。「つながり」という温かな言葉を、具体的な責任から切り離さないことが大切だ。
さらに、つながりを望まない人や、一人で過ごす時間を大事にする人もいる。誰もが同じ関わり方を選ぶ必要はないという前提を持って、選択できる場を増やすことも豊かさにつながる。
食から医へ|一つの言葉で異なる事業を結ぶ
キリングループは飲料や食品のほか、医薬やヘルスサイエンスにも事業領域を持つ。現行のスローガンページでは、それぞれの領域で届けたい価値を紹介する。事業の種類が異なっても、人の生活へ役立ちたいという方向を短い言葉で示している。
医薬の価値は、安全性や有効性といった専門的な根拠によって確かめなければならない。食品の魅力も、味覚の楽しさと栄養・健康に関する表示を分けて読む必要がある。共通のスローガンがあるからといって、領域ごとの評価基準が同じになるわけではない。
ヘルスサイエンスについても、企業の研究成果や商品表示を客観的に確かめることが重要だ。理念の言葉と科学的な証拠を混同せず、それぞれの目的に応じて理解することが信頼につながる。
2019年の変化|何を約束する企業か
採用サイトの公式説明では、2019年1月に長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」が策定され、理念体系とロゴも更新されたことが示される。スローガンだけを変えた出来事ではなく、会社の進む方向を組み直した流れの中で生まれた言葉だ。
社内の人が新たなスローガンにどんな思いを込めたかも、公式の採用記事で紹介されている。外部へ届ける言葉が、働く人が自分の仕事の意味を考え直す機会にもなりうるという側面を考えられる。
ただし、2019年の経営構想に書かれた目標を、2026年時点で達成したと断定することはできない。宣言、目標、実績を別々の資料として確認することで、企業の言葉を過不足なく評価できる。
まとめ|未来へ向かう合言葉をどう読むか
「よろこびがつなぐ世界へ」は、キリングループが2019年1月に制定したコーポレートスローガンであり、現在も公式ページで掲げている。食・医・ヘルスサイエンスなど異なる事業を、人々の喜びという方向で結びつける表現である。
この言葉が伝えようとするのは、よろこびの連鎖を広げたいという目標だ。しかし目標が現実になったかは、事業ごとの成果や影響で確かめなければならない。よい言葉への共感と、実際の企業行動への検証を両立させることが大切になる。
原典確認:キリンホールディングス公式「コーポレートスローガンと企業活動」、同社採用サイト「新コーポレートスローガン」。タグ114根拠:公式スローガンページに文言全文を確認し、採用サイトに2019年1月の制定を確認。森永製菓「おいしく たのしく すこやかに」と読み比べれば、食品に関わる企業でも言葉の対象や正式な位置づけが異なることが分かる。広告コピー・企業スローガンのハブからも探せる。