杉山将「原理が理解できてこそ、新しいAIをつくり出すことも可能になります」の意味と出典|仕組みを問う基礎研究

はじめに|使うことと理解することの違い

理化学研究所の杉山将は、AI研究について「原理が理解できてこそ、新しいAIをつくり出すことも可能になります」と述べた。AIの応用が広がる時代に、あえて仕組みの理解へ目を向ける一節である。便利な道具を使う力と、なぜ動くかを説明する力は別だという問いが含まれる。

AIによって文章を整えたり画像を分類したりできても、その結果が生まれた理由を正確に理解しているとは限らない。動くものを使うことと、原理を確かめることは異なる仕事である。性能が高いからといって、仕組みが完全に分かったわけではない。

ここでの「理解」は、単に技術用語を知ることではない。どの条件でうまく働き、どの状況で失敗しやすいのかを、数学や実験によって調べることを含む。結果の説明に必要な条件まで明らかにするのが基礎研究の重要な役割である。

ただし、この言葉を原理が完全に解明されなければAIを使ってはいけないという主張に変えるのは誤りだ。技術の発展には基礎研究と応用研究の両方が必要となる。利用を否定するのではなく、利用の先に残る根本的な疑問へ向き合う言葉である。

原典|理研の2026年10月19日付特集

出典は理化学研究所が2026年10月19日に公開した「なぜAIは賢いのか 原理を解明し、日本発の技術開発へ」である。革新知能統合研究センター(AIP)の杉山将センター長が、基礎的な数理研究を重視する理由として対象の文を語っている。話者・掲載日・記事の章と逐語表現を公式資料で確認できる。

記事では、AIをどう使うかだけでなく、AIとは何かを根本から探る研究を重視してきたことが説明される。生成AIの普及以前から続く基礎研究の積み重ねが背景にある。目の前の流行を批判するためではなく、変化の速い分野の土台をつくるための発言と読む必要がある。

同じ記事は、深層学習の性能が高い理由について、数理的な研究の一部を紹介する。複雑なデータを扱う難しさと、特定条件下でその壁を越えられる可能性を検証している。全てのAIの働きを説明し終えたという意味ではなく、理解できる範囲を少しずつ広げる研究である。

確認したのは理研の取材記事であり、論文全文の独立した査読や、あらゆるAIに適用できる法則の確認ではない。本文の技術説明と杉山自身の研究姿勢に関する発言は、根拠の種類が異なる。一次掲載で確認できる言葉と、研究成果の一般化を区別することが重要だ。

意味|見えない原理を問い続ける

人は結果が目に見えると、その裏側の仕組みを確かめずに満足してしまうことがある。しかし技術が社会に広く使われるほど、なぜ誤るのか、何を変えれば改善するのかが重要になる。仕組みの理解は好奇心だけでなく、信頼性を高めるための仕事でもある。

原理を考える研究では、すぐ役立つ機能を作るよりも遠回りに見える問いに時間を使うことがある。その成果は短期の製品数だけでは測れない。長い時間をかけて得た説明が、将来の異なる技術にも応用できる可能性を持つ。

それでも基礎研究と社会実装は完全に分かれるわけではない。応用の中で起きた予期せぬ問題が新しい研究の問いを生み、理論の進歩が次の技術を支える場合もある。作って確かめることと、考えて理解することが循環する関係を見たい。

「新しいAI」は既存技術を単に大きくすることだけを指さないだろう。まだ十分に説明されていない現象に理解を深め、新しい条件でも働く方法を構想する可能性がある。今ある便利さの延長だけに未来を閉じ込めないという見方ができる。

研究者と社会の接点

AIが身近になると、利用者はその仕組みをどこまで知る必要があるのかという問いも生まれる。全員が数学の専門家になる必要はないが、出力には誤りがあることを知り、重要な情報を別の資料で確かめる姿勢は役立つ。詳しい原理を研究する人と、適切に使う人では必要な知識の深さが違う。

またAIの技術を評価する際には、性能の数字だけでなく、データの偏りや安全性、説明できる範囲を考える必要がある。仕組みの理解はこうした議論の助けになる。どんな条件で信頼してよいのかを判断する土台が求められる。

一方で、原理が分かることだけで倫理的な課題の答えが出るわけでもない。どんな目的に使うか、誰に利益や負担が生じるかは社会的な判断でもある。技術への理解と、技術をどう扱うかという責任を並べる必要がある。

科学を支える仕事は単独の研究者だけで完結しない。計算環境、ソフトウェア、他分野からの知見など、多様な人の協力が研究の前提になる。基礎原理の解明を、共同で疑問を確かめる営みとして捉える視点も大切だ。

現代の読み方|答えの理由を確かめる

仕事でAIを利用するとき、出力された文章がもっともらしくても、参照した原典が本当に存在するかを確かめたい。便利さを受け取りながら、どこに不確実さが残るかを知ることが大切だ。使えたという経験と、正しいと確かめた経験を区別する習慣が役立つ。

杉山の別の一節を扱った「勇気を持って流行らないことをやる人が、一定数は必要です」は、研究テーマの選び方に焦点を置いている。本記事は、なぜ原理の理解を目指すのかを主題とする。研究の方向を選ぶ勇気と、研究で答えたい根本の疑問を読み比べられる。

問いを立てるときは、すぐに役立つかどうかだけでなく、分かっていないことは何かと考えてみたい。理解を深める取り組みは時間がかかるが、将来の選択を増やす可能性もある。目先の答えで終えず、その答えが成立する理由を考える姿勢を残したい。

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