「情報過多になるのは避けたくて」というデザインの言葉
宇宙科学研究所の「探究者カード」のデザインに携わった髙田真緒は、「情報をたくさん入れたいけど、情報過多になるのは避けたくて」と語った。伝えたいことが多いからこそ、見る人が理解しやすい形へ整理する必要があるという判断が表れた一節である。
カードには、研究者や職員の名前、所属、専門分野、関わるミッションなどを載せられる。しかし一枚の紙の大きさは限られている。情報の数を増やすことと、見た人がその情報を理解できることは同じではないという問題が生まれる。
髙田は、人物に目が行きやすくなるよう枠を細くし、必要な余白を作ったと説明している。何もない空白も、情報を読むうえで役割を持つ。余白を無駄として埋めるのではなく、大切な情報が目に入るための場所として設計する考え方だ。
ただし余白が多ければ必ず優れたデザインになるわけではない。文字の大きさや色、利用する人の見え方にも配慮が必要になる。見た目の美しさだけでなく、情報を必要としている人が使えるかを確認することが重要だ。
原典|JAXA宇宙科学研究所2026年10月26日付取材
原典はJAXA宇宙科学研究所の「2026年度版ISAS探究者カードのご紹介」企画チームインタビュー。2026年10月26日公開、「カードデザインのこだわりポイントはありますか?」への髙田本人の回答で該当箇所を確認できる。掲載機関、公開日、話者、質問と逐語の対応が確認できる。
探究者カードは、研究者だけでなく技術者、事務職員、学生など、宇宙科学を支える人々を身近に感じてもらうための企画だ。前年の特別公開で始まり、2026年度は子どもにも分かりやすいデザインへ更新されたという。自分たちの研究成果を説明するだけでなく、誰が研究を支えているのか知ってもらう目的がある。
髙田の担当はカードのデザインで、専門分野をサイエンティスト、エンジニア、サポーターに分け、色やピクトグラムを用いたと説明されている。種類を分類するだけでなく、その違いを一目で伝えるための視覚表現へ変えている点が重要になる。
取材は企画担当者本人の説明だが、実際に何人の子どもがカードを理解できたかを測定した調査ではない。工夫の内容と狙いを確認できることと、利用者による効果が実証されたことを分けて受け止める必要がある。
カードの色と余白に込められた役割
髙田はエンジニアに黄色、サイエンティストに青色、サポーターに緑色を使い、色が組み合わさることで宇宙研の協力を表せると考えた。色は単なる飾りではなく、異なる役割が集まって研究が進むことを見せる手段になっている。
また、誰がどのミッションに関わっているかを知らせるため、カードにミッションバッジも載せたという。情報が整理されていれば、カードを見た人が興味のある活動を探しやすくなる。知識を全部説明するのではなく、次に知りたくなる情報へ案内する設計でもある。
一方、色分けだけでは視覚的な区別が難しい人もいる。文字や図形、説明を組み合わせて伝えることが大切になる。一つの情報を色だけに依存させず、複数の手掛かりを用意することがアクセシビリティにつながるという視点も持ちたい。
カードに情報を詰め込みすぎなければ、一つひとつの情報が読みやすくなる可能性がある。しかし削る情報を誤れば、その人の活動が伝わらなくなる。何を載せないかという判断にも、誰を紹介したいかという目的が必要になる。
研究者以外にも光を当てるという判断
髙田は、事務系の職員や研究を支える人々のカードを今後さらに増やしたいと語っている。研究の成果として注目されるのは科学者や装置であっても、それだけで大きな仕事が進むわけではない。研究を可能にする多様な役割を同じ企画の中で可視化するという考え方だ。
宇宙科学に関心があっても、研究室でどんな仕事をしているか知らない子どもは多いかもしれない。カードがきっかけとなって人へ質問できれば、分野の名前だけでは見えない仕事に出会える。専門知識の量を競うより、気軽に話せる入口をつくることが狙いなのだろう。
企画チームは、カードを手渡す機会に本人へ話しかけてもらうことも大切にしていた。ウェブの研究者紹介へ誘導する仕組みも考えていたという。カード一枚ですべてを説明するのではなく、人との会話や次のページへつなぐ情報の階段を設けている。
ただし、カードを集める人が必ず研究へ関心を持つとは限らない。誰がどのような使い方をしたのかは、実際の利用から確かめる必要がある。設計者が込めた意図と、利用者が受け取る経験を分けて観察する姿勢が欠かせない。
伝える量より、伝わる順番を考える
髙田の一節は、記事やウェブサイトを作るときにも応用できる。役立つ情報が多いからと、最初の画面へすべてを並べればよいわけではない。読み手が何を探し、最初に何を知りたいかを考えて情報の優先順位を決めることが重要になる。
篠原直生の探究者カードをめぐる言葉では、研究に関わる人が応援される環境を作りたいという願いが語られる。企画全体の目的と、カードを見やすくする具体的なデザインの選択を比べられる。
鳥海陽与の最新の観測データを解析へ回す言葉は、情報を速く届けるための仕組みづくりを扱う。処理の速さと、伝える情報を選ぶ判断は別々の技術上の課題としてつながる。
「情報過多になるのは避けたくて」は、伝える内容を少なくすればよいという単純な指示ではない。研究への入口になる大切な情報を、届きやすい形へするための判断である。情報を減らすことを目的にせず、相手が知りたいことへたどり着けるよう整える姿勢が読み取れる。