「音を交わす体験に代わるものはない」という言葉
指揮者のトマーシュ・ネトピルは、初めて共演する日本のソリストたちについて、「実際にステージで音を交わす体験に代わるものはありません」と語った。録音などを通して相手の演奏を知ることと、同じ場で互いの音を聴きながら演奏することは異なるという実感を表す一節だ。
音楽を知る方法はさまざまで、録音や動画は新しい演奏者に出会う助けになる。それでも一緒に演奏すると、音の立ち上がりや呼吸、周りの響きに合わせて、その瞬間の判断が必要になる。事前の知識がどれほどあっても、共に作る時間から新しい発見が生まれるという見方ができる。
ネトピルは、共演する金子三勇士、桑原志織、北村陽の演奏をメディアで聴いてきたと説明している。録音の価値を否定するのではなく、そのうえで直接音を重ねる機会を楽しみにしていることが重要だ。
この言葉を、オンラインでの音楽経験や録音作品は無意味だという主張に変えてはいけない。異なる方法には異なる価値があり、本人が共演の瞬間に特別なものを感じているということとして理解したい。
原典|2026年10月14日ジャパン・アーツ公式取材
出典はジャパン・アーツ公式「2027年1月来日!プラハ交響楽団首席指揮者兼音楽監督 トマーシュ・ネトピル」。2026年10月14日公開、日本ツアーのプログラムを尋ねた質問に対する回答で、該当の一節が確認できる。本人への取材、媒体、日付、発言の位置を直接特定できる。
記事ではドヴォルザークやチャイコフスキー、ベートーヴェンなどを組み合わせた公演を紹介している。指揮者はプラハ交響楽団と共に日本で演奏する機会を心待ちにしていると述べた。今後予定されている演奏会で初めて共演する相手への期待が、この言葉の前提である。
したがって、この発言を公演終了後に共演の成功を確認した評価として扱うことはできない。演奏前に語られた期待と、将来実際に生じる体験を区別する必要がある。公演の結果については別の記録が要る。
取材は公式の日本語掲載文であり、指揮者が実際に話した言語の逐語録まで照合できる資料ではない。確認したのは日本語で公表された発言であり、未確認の原語表現や翻訳者の細部を作らない姿勢が重要だ。
知っている演奏と、同じ場にいる演奏
録音で聴くとき、演奏者はすでに完成した音楽に向き合う。だが共演するときは、演奏を成立させるための小さな選択が同時進行で起きる。一つの音の長さや強さを決めることが、隣の演奏者の次の動きへ影響する場合がある。
オーケストラと独奏者は役割が違うが、どちらかが一方的に音楽を完成させるわけではない。指揮者は全体の流れを見通しつつ、演奏者からの反応も受け取る。指示を与えることと、相手の表現を聴いて変化することを両立する時間になる。
ただし、共演するたびに全員が必ず同じ程度の喜びを感じるわけではない。相性や準備、会場の条件によって経験は変わる。ネトピルが期待していた出会いを一つの具体例として捉えることが適切だ。
また、直接会うことが難しい地域や状況もある。録音や遠隔の技術が人をつなぐ価値は否定できない。直接の共演ならではの働きを考えながら、別の形で音楽を共有する可能性も尊重する視点を持ちたい。
同じ作品を演奏しても新しさが生まれる
ネトピルはプラハ交響楽団との初シーズンを通して、互いを深く知るための時間を共有したと語る。長く弾き慣れた曲であっても、誰と演奏するかによって聴こえ方は変わる。作品が同じであっても、演奏する人々の関係はそのつど新しくなるということだ。
彼が特別な思いを語るドヴォルザークの『新世界より』は、チェコの音楽家として長年親しんできた作品である。すでに深く知っている曲を新しい仲間と演奏することで、別の表情を発見できるかもしれない。
ただし指揮者が自国の作品に深い親しみを持つことと、その作品には国籍によって決まる唯一の解釈があると主張することは別である。伝統を尊重しながら、異なる演奏者が持つ視点へ耳を開く姿勢が大切だ。
演奏会では事前の計画が必要だが、すべてを固定すればよいというわけではない。準備の厚みを持ったうえで、その場の音を聴いて演奏を作り直す余地を残すという考え方が、この一節の読み解きを支えている。
共演から学ぶ、他者との距離
「音を交わす」という表現は、音を出す人が互いの存在を感じながら一つの時間を作ることを連想させる。自分のやり方を持ちながら、他者の反応へ耳を向けるという姿勢は、音楽以外の協働にも通じ得る。
金子三勇士の「人間から人間へ届く音楽」を問う言葉は、同じ公演に向けて独奏者の立場から音楽の意味を考えている。指揮者とソリストでは役割が違うからこそ、互いに何を受け取りたいかを比べられる。
北村陽の音楽で心をつなぎたいという言葉も、異なる人と演奏を通して関わる願いを語る。人と人の関係を結ぶという目標と、そのために同じ舞台で音を重ねるという具体的な方法を並べて考えたい。
ネトピルの言葉は、技術の便利さや録音の価値を退けるものではない。知っているつもりだった相手とも、実際に同じ仕事へ取り組むと新しい発見があるという、共演のかけがえのなさを語った一節として残る。