アリストテレスの名言ではなかった
「我々は繰り返し行うことによって作られる。したがって卓越性は行為ではなく習慣である。」英語圏では “We are what we repeatedly do. Excellence, then, is not an act, but a habit.” として非常に有名です。
長くアリストテレスの名言として紹介されてきましたが、この有名な文章を書いたのはアリストテレスではありません。
文言の出典は、アメリカの著述家ウィル・デュラントが1926年に刊行した『The Story of Philosophy』です。デュラントがアリストテレスの倫理学を説明する中で、その思想を自分の文章で要約しました。
なぜアリストテレスの名言になったのか
この誤帰属が広がったのは、デュラントの要約がアリストテレスの思想をあまりにうまく捉えていたからかもしれません。
『ニコマコス倫理学』第2巻でアリストテレスは、倫理的な徳は習慣によって形成されると論じます。正しい行為をすることで正しい人になり、節制ある行為によって節制ある人になり、勇敢な行為によって勇敢な人になる、という趣旨です。
デュラントはこの議論を一般読者向けに凝縮し、反復する行為と卓越性・習慣を一つの印象的な文章へまとめました。
思想はアリストテレス、文章はデュラント
ここで大切なのは、「誤帰属だから内容までアリストテレスと無関係」とすることでもありません。
文章の作者はデュラント。思想的な土台はアリストテレス。この二つを分けるのが最も正確です。
アリストテレス本人の言葉を紹介したい場合は、『ニコマコス倫理学』第2巻の習慣形成の議論へ戻るべきです。一方、有名な “We are what we repeatedly do” を引用するなら、デュラントの文章として示す必要があります。
「一度の成功では卓越性にならない」
デュラントの要約が今も支持される理由は、一度だけ良い行動をすることと、その人の性格として徳が定着することの違いを短く表しているからです。
これは、アリストテレスが倫理学で扱った習慣形成の重要な側面と重なります。
ただし「毎日同じことを繰り返せば必ず成功する」という自己啓発の法則ではありません。アリストテレスが問題にしているのは、とりわけ善い行為を繰り返すことで性格的な徳が形成されるという倫理的な議論です。
誤帰属を直すと、むしろ面白くなる
このケースは、名言の出典確認がなぜ面白いのかをよく示しています。
誤りを訂正すると名言の価値が消えるどころか、アリストテレスの古代の倫理学が、20世紀のデュラントによってどう要約され、その文章がさらにアリストテレス本人の言葉として広がったのかという歴史が見えてきます。
言葉には、書かれた瞬間だけでなく、引用され変化していく歴史があります。
誰の言葉かを残して読む
「我々は繰り返すものである。卓越性は行為ではなく習慣である」という有名な文章は、アリストテレスの逐語的な名言ではありません。
文言を書いたのはウィル・デュラントで、1926年の『The Story of Philosophy』に登場します。
ただし、その背景には『ニコマコス倫理学』第2巻の習慣と徳についての真正な議論があります。
思想の源流と、実際に文章を書いた人物を両方残す。それが、この有名な「アリストテレス名言」を最も豊かに読む方法です。
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アリストテレスを人物から読む
本人の著作と、後世の要約・伝承を分けながら思想全体をたどれます。
『ニコマコス倫理学』を作品から読む
幸福・徳・習慣・友情を、作品全体の中で読み直せます。
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